3話 魔導師ルウとその部下たち
その日は、とてもよく晴れていた。
しかしルウの心はどんよりと曇って晴れることはなかった。
それもそのはず、館の前にはご丁寧にお見送り部隊が列をなして、ルウが現れるのを待ち構えていたのだから。
ご丁寧に、王宮付きの楽団までがその列に加わり、軽快な音楽を奏でているではないか。
カーテンの隙間から窓の外を眺め、お見送り部隊の先頭に位置する能天気な楽団を軽く睨み、深いため息を吐いた。
「耳障りな音楽だ」
吐き捨てるようにそういった瞬間、ルウの寝室の扉が勢いよく開いた。
「ルウ様、準備は整いましたか?王がお待ちですよ」
扉が開くや否や、少し小気味よさげな声がルウの耳に流れ込んだ。王宮付き魔道部隊の部下達を取り纏めている、魔道師のモニークと、その補佐のギルギアだ。
階級では自分が魔道部隊の総括で、全ての隊のトップに位置していることになっているのだが、実際に隊を取り纏め、動かしているのはモニークとギルギアだった。
自分は名ばかりのお飾りのようなものだ。
しかし、ルウはそれでも全く構わなかった。というより、むしろそっちの方がありがたかった。
モニークとギルギアは、本当の実力者で、とんでもなく難しい筆記試験と1ヶ月にも渡る過酷な実技試験を突破して王宮魔道師になったのだ。
しかもその成績は歴代でも類を見ない程の優秀さときたもんだ。
多分この二人は、世界中でも間違いなくトップランキングの上位2人だろう。この二人が居たおかげで、大泥棒のクロを捕らえることができたといっても過言ではない。
そんな二人が、自分の部下であり、自分の命令をなんでも聞く立場にあったのだから、ルウにとっては笑いが止まらない。
モニークとギルギアの功績を自分のものにした事など、数知れず。
嫌な仕事は全てこの二人に任せ、自分はこの館でのんびりと報告をまっているだけでよかった。それだけで、自分の評判はどんどん上がっていくのだ。
しかし、そんな彼らも、今回だけは手を引いた。
「準備など出来てる訳がないだろう!」
怒りをあらわにして、ルウは怒鳴ったが、二人は部屋の前で傅いているだけで、何も答えない。
「何故お前らが行かん?!」
二人の前に大きな足音を立ててずかずかと近づくき、大声で吐き捨てるように言った。
「私どもの魔力ごときでは、『命の木の実』を取ってくるなどとても無理でございます」
最初に言葉を発したのは、ギルギアだった。
恭しく頭を上げ、ルウを見上げながら、少し小馬鹿にした含みを加えてそう言う。
「ギルギアの言う通りでございます、ルウ様。我等では力不足でございます。聖騎士団が全滅した地に赴く事など、死にに行くも同然。ここはひとつ、ルウ様の実力を我等に示して下さいませ。いつも我等に『私が赴くまでもない、お前たちでなんとかしろ』とおっしゃっておられたルウ様なら、この難関くらい難なくこなして下さるでしょう」
ギルギアの後に続き、これまた皮肉っぽく付け加えるようにモニークが言った。
(くそう……。こいつら分かっててわざと言ってやがる!こいつらが無理なら、私なんか近づく事すら不可能だというのに)
イライラしながら、二人を睨みつけるが、モニークもギルギアもどこ吹く風といった感じで受け流す。
「お前らも一緒に来い!」
ルウが声を荒げてそう言っても、二人とも頭をふるばかりで絶対同行はしない構えを崩さなかった。
「とにかく、私は何の準備も出来ていない。今すぐに出発するのは無理だ!というか、昨日の今日でいきなり出発できるわけがないだろう!?」
あくまで行きたがらないルウと、なんとしてでも行かせようとするモニークとギルギア。
しばらく埒の明かない押し問答を続けていた3人だったが、楽団の音楽も一巡した頃になると、いい加減にしびれを切らしたモニークがルウを一喝した。
「ルウ様!我侭も大概になさいませ!!婚約者のイライザ様のお命が掛かっているのですよ!」
そのセリフにルウはぎょっとしてモニークの顔を直視した。
(待て!婚約者だと?!いつの間にそんな事に!!)
「とにかく王がお待ちです!旅の準備は我々ですでに済ませてありますので、安心してお行き下さいませ!!!」
あまりの事に、言葉を失って呆然としているルウに矢継ぎ早にモニークが言葉を浴びせ、ルウを強引に部屋から引きずり出した。
そんな訳で、今、ルウは、大泥棒が閉じ込められている高い塔のてっぺんの牢獄に居る。
玉虫色に光る厚手のローブを纏い、手には一つ星が封印された水晶球のついた魔法の杖を持ち、とんがり帽子を被った格好で、半裸でベッドにごろんと横になっているクロとゴキブリが化けた少年の側に強引に転送されてしまったのだ。




