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2話 大泥棒クロとゴキのお話

――と、ここで今回のルウに同行することになっている、大泥棒のクロとゴキのお話


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



――ここは赤月の国。

 そこには世界を騒がせた大泥棒がいました。

 大泥棒は五百人の兵と、五十人の魔法使いによって捕らえられ、高い高い塔のてっぺんにある牢獄に閉じ込められました。

 大泥棒の名は『クロ』

 その牢獄は、大泥棒クロの為に造られた特別なものでした。

 牢獄の扉は溶接で塞がれ、出口はありません。


 あたり一面つるりとした壁で、クロが閉じ込められている場所もとんでもなく高い所にあるだけでなく、その部屋の天井はこれまたとんでもなく高い所にあり、そのとんでもなく高い天井の少し下に明かり取りの窓がありましたが、ツルツルの壁に半裸で収監されているクロでは脱獄は不可能です。



 赤月の国の王様は今まで散々苦渋を舐めさせられたクロに『最大の苦しみと屈辱を与える』と言い放ちました。





「は~ヒマだ……」

 クロは堅いベッドに寝そべりながら、何もない部屋の中をぐるりと見回しました。


 部屋の端に、円筒状のテーブルが置いてあり、その上に、朝と夜に1回づつ食事がどこからともなくパっと現れるのです。

 その食事と、高い天井にある小さな明かり取りの窓で、今が昼なのか夜なのかかろうじて分かるくらいです。



 何もする事がない――


 そんな毎日が3年程つづきました。

 部屋にはテーブルとトイレ以外何もなく、扉も溶接され開く事はありません。



(あ~する事ねぇって拷問だな。ここ3年ほど人の顔も見てねぇし)



 クロはベッドの中で、変わらない日々を送りながら考えました。


「つーか、あれか?これが王の言ってた『最大の苦しみと屈辱』ってやつか?癪だが結構堪えるな……」


 そんな感じでクロが精神的にじわじわ~っとダメージをくらってた時に、どこからともなく人の声がしました。



「あの……」



 小さくおずおずした声は、確かにしっかりとクロの耳に届いたのです。


「おっ!久しぶりの人の声!!」


 大泥棒のクロはわくわくしながら声のする方向に振り返りました。

 すると、そこには見たこともない少年が立っていました。



「こんにちは……、大泥棒さん」


 少年は、少し怯えたような表情でクロを見ながら、小さい声で挨拶をしました。

 出口も入り口もない、完全に閉ざされた高い塔のてっぺんにいきなり現れた謎の少年。

 丸く大きな瞳に真っ黒な肩まで伸びた髪、華奢な手足、一見すると少女にも見える可愛い外見。


「お前一体どこから……」

 クロは少し警戒して、その少年に尋ねるでもなく呟くように言いました。

「えっと、その、ボク……、あの気付いたら……」

 鋭い瞳に睨まれた少年は、あせったようにしどろもどろで答え始めました。


 その姿をじっと見ていたクロは、ニヤリと笑うと「まぁ、そんなコトはどーでもいいや」と呟き、少年を軽々と肩にかついで、ベッドへと運んで行きました。

「あれだな、所謂、差し入れってやつだ!恩情だな。気が利くね~」

 クロは一人で納得したようにそう呟くと、ベッドにのせたその少年エロい事をしはじめました。


 さすがは天下の大泥棒、倫理観とかまるでなしです。




 精力絶倫なクロの行為に、少年は疲れ果て、終わった頃にはぐっすり眠ってしまいました。

 その可愛い寝姿を見ながら、クロはとっても満ち足りた気分になりました。



――その頃

 その行為を魔法の水鏡に映し、にやりとほくそえむ王様と魔法使いルウの姿が、王宮の密室にありました。


「大泥棒め、まんまと罠に嵌ったな!」


 したり顔でそう言いながら、嬉しくて仕方がないといったように魔法使いルウの方を振り向く王様。

 その姿を大きく頷きながら、見守る魔法使い。


「今こそ最大の苦しみと屈辱を味わうがいい!!!」

 王様は声高らかに言いました。


「そいつの正体は――」




「ごめんなさい、大泥棒さん……。ボク……実は……」

眠りから覚め、ベッドに改めて座り直した少年は、言いづらそうにクロに何かを告白しようとしていました。

 クロはじっと少年を見つめ、真剣に聞いていました。



「実は、ボク……、ゴキブリなんです」



 その映像と音声は魔法の水鏡によって王様と魔法使いルウにリアルタイムで流れていました。

 王様と魔法使いは、ゴキブリの告白を聞いた瞬間、歓喜した。



「わーーーーっ!言っちゃった!!ひゃはっはっはっは~~!大泥棒め!ゴキとえっちしちゃったよ~~!バーカ」

「こりゃ~一生モンのトラウマ!!大泥棒のマヌケ面が拝める~~!」

「大ショックで自殺かもね~」

「生きててもショックで生涯イ〇ポ間違いなし!やーーい、やーーい!」

 口々にクロを罵倒|(?)する言葉を吐きながら、自分達の計画が見事にビシっと決まった事をこれ以上ないくらいに喜びました。

 クロに最大の屈辱を与える為だけに、長い時間をかけ、練りに練った、卑劣で恐ろしいこの作戦を計画し遂行したのです。2人の喜びは計り知れません。


 喜ぶ二人の耳に、水鏡から、クロの声が聞こえてきました。



「へぇ~、俺の名はクロ。これからもよろしくな、ゴキ」



「えっ?」

 予想外のクロの反応に二人は素っ頓狂な声を上げました。


「あ、あの、ボク、人間からすごく嫌われている害虫ですよ?汚いって嫌ったり、叩き殺そうとしないんですか?」

 おずおずと喋るゴキの頭をがしがしっとなで、満面の笑みを浮かべながらクロはこたえた。

「しねーよ。俺、ゴキは嫌いじゃないから」

「で、でも、もう、だっことかチューとかはしてくれないですよね。だって、ボク汚いし、嫌われてるし……」

 予想外の答えに、当惑しながらもゴキはクロに尋ねました。

 そんなゴキを抱き寄せ、おでこに唇を付けながら「だっこもチューもいっぱいするよ」とクロは言いました。


「で、でも、元の姿に戻ったら……」

 なおも不安そうに尋ねるゴキをぎゅっと抱きしめクロは答えました。

「大事に育てるよ。さっきも言ったけど、俺、ゴキ嫌いじゃねーし」

 初めて優しくされたゴキは目にいっぱい涙を溜めながら、嬉しそうにクロを見つめました。




 そんな二人の姿を水鏡ごしに見ていた王様と魔法使いルウは、激怒しました。

「なんかムカつく!!魔法使いルウよ!!すぐにゴキを元の姿に戻すのだ!」

 そう言い放つ王に、言いづらそうに魔法使いは言葉を濁します。


「それが……」

「なんだ?!どうしたのだ?」

 王様の急かすような問いかけに、魔法使いルウは重い口を開きました。


「変化の魔法を解くには、伝説の火竜の洞窟にある竜の玉が必要なんです。竜の洞窟には、凶暴な竜がおります。竜がその玉を守っているのです。その玉を盗って来れる奴は世界広しといえど、大泥棒のクロくらいで……」


「えーーっ!マジ?!」


 王達の計画は失敗に終わりました。


 そんなわけで、クロとゴキは末永く仲良く幸せに暮らしました。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


――といった感じで、今現在大泥棒のクロは高い幽閉塔に閉じ込められているのだ。


 いや、大泥棒をそんな理由で外に放っていいのか?王様?

 そもそも大泥棒がそんなに簡単に言うことを聞くのか??

 もう不安しかないルウだった。

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