二十八話 きらい
この声は……いえ、そもそも、媒体を通して遠隔で声を届けることができる存在なんて、この国には限られた人しかいない。
つまり、私を拉致した黒幕は……。
「あなたは、聖女シャルロット様……いえ、ベルフォール侯爵夫人といった方がよろしいかしら」
『あははっ、正解で~す』
私の問いかけに対し、シャルロット様は心底楽しそうな声でケラケラと笑う。とても……なんというか、不愉快だわ。
でもこれでハッキリした。シャルロット様は、何かしらの目的があって私を拉致し、拘束するように仕向けている。
問題は、どうやって私の居場所を特定したのか、だけれど……。
『あら、もしかして今、「どうして私の居場所がわかったんだろう」なんて考えてるの?』
「……ご名答ね、その通りよ」
『簡単なことですよ~。この前街で会った時に、ミレイユ様がつけていたブローチに追跡魔法をかけておいたの! でもあなたったら、結婚式の時くらいしか外に出ないんだもん。私、すごく飽き飽きしちゃってたのよ?』
「そう、それは悪いことをしたわね。……で、今日ようやく私が公爵邸の外に出たから、こうして私を攫ったってこと?」
『ご名答ね、その通りよ……なーんてね、これ、さっきのミレイユ様の真似。似てた? あはは」
……お話にならないわね。
けれどまぁ、恐らく要点を整理すると……。
まず、街で私に会った時、私のブローチに追跡魔法をかける。
次に、いつ私が外に出ても捉えられるよう、盗賊団の彼らを雇って公爵領に待機させる。
そして、私が一人になった隙を狙って、私を捕まえた……。
「……私がブローチを落とさないで、一人にならなかったらどうするつもりだったの?」
『あら、まだ落としたと思ってるの? あのブローチはね、ちゃーんと外れるようになっていたんですよ。ほら、街で子供に花を貰ったでしょう? あの子が外して、路地裏に投げ込んでくれたのだから』
「なっ……子供を、脅したの!?」
『やだなぁ、人聞きの悪い……ちょっと「お願い」しただけよ、あははっ!』
「……最低ね」
私が吐き捨てるようにそう言うと、ペンダント越しの笑い声がぴたりと止んだ。
『ねぇ、ミレイユ様。私がどうしてこんなことをしたと思う?』
「それがわかったら、私はこんなところにいないでしょうね」
『ふーん。こんな状況でもまだ虚勢が張れちゃうんだ? まぁいいや、教えてあげるね』
それから、場がシン……と静まり返る。
数秒の沈黙の後、シャルロット様は聖女らしい甘い声で、囁くように声を発した。
『私ねぇ、あなたのことが嫌い。……ううん、だーーい嫌いなの♡』




