二十七話 誘拐
____ズキン!
突如、そんな鈍い痛みが頭を襲って、ゆっくりと意識が浮上する。
……どうやら私は、気を失っていたらしい。
「……う、うぅ…………」
身体が重い。頭が痛い。息苦しい。
それに、視界が真っ暗だわ。
それでもなんとか呼吸をすると、なんとも埃っぽくていやな空気が肺を満たして、思わず咳き込んだ。けれど、おかげで意識がだいぶはっきりしてきた。
同時に、自分の手足がロープで縛られていることに気付く。
……そうだわ、私、路地裏でブローチを見つけたと思ったら、頭に衝撃が走って……。きっと、殴られたせいで意識を失っていたのね。そして今、拘束されている……。
「なんだ、起きたのか、お嬢ちゃん。……いや、公爵夫人と呼んだ方がいいか?」
「……あなたは、だれ?」
背後から低くてしゃがれた声が聞こえてきて、緩慢な動作で首を捻った。そこにいたのは、賊のような恰好をした見知らぬ男だった。いや、「ような」ではなく、実際に賊なのでしょうね。
でも、公爵領に、賊なんているのかしら……?
「見りゃわかんだろ、俺らは盗賊団だ。が、今はある人から雇われてる……雇われ兵ってとこだな」
「……そう。ここはどこなの?」
「おいおい、お嬢ちゃんならもっと泣き叫ぶなり大袈裟に騒いだりしろよ、つまらねぇ」
「お生憎様、あなたを喜ばせるような激情はもう失ってしまったの」
「あーあ、生意気なお貴族様だぜ。あの方がいっていた通りだな」
「……あの方?」
聞き逃せない単語が耳に入ってきて、私は思わず聞き返す。すると男はにやりと笑ってから、そばにいたらしい部下に「おい、あれ持ってこい」と命令した。
「……質問に、答えなさい」
「ははっ、自分の立場わかってんのか? 俺はいつでも、お嬢ちゃんを殺せるんだぜ」
「……」
殺すという言葉に、私はつい怯んでしまった。情けない。こんなことで怯んでいるようじゃ、エヴァンローズ公爵夫人なんて務まらないというのに。
それでも声を出さずに一旦大人しくしていると、頭と思しき男は満足したのか、部下から大粒の貴石のペンダントを受け取った。
それから、ペンダントに対して少しだけ畏まった口調で話しかけ始める。
「……失礼、俺です、ベックです。標的が目を覚ましました」
「……? ちょっと、一体誰に話しかけているの?」
それに標的って……間違いなく私のことね。やっぱりこれは偶然なんかじゃなく、計画的な犯行だったということ。
けれど、一体だれが、何のために……?
そう疑問に思った次の瞬間。
ペンダントが眩しく光ったかと思うと、正直あまり良い印象のない、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『もしも~し。お元気ですか? ミレイユ……あ、様をつけなきゃいけないんだっけ? あはは』




