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勇者葬儀社 〜世界を救った英雄の死因が、毎回おかしい〜  作者: swingout777
第11章 最後の勇者葬儀

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第41話 それぞれの役割

国葬前夜、王都は眠っていなかった。


鐘楼広場では夜通し準備が続いている。

白い花が運ばれ、聖務庁の祈り手たちが配置を確認し、王国軍の兵士たちは祭壇周囲の警備線を張っていた。英雄管理局の職員たちは、弔辞、式次第、参列者名簿、民衆誘導、すべてを細かく確認している。


死者を送る場というより、戦の前夜のようだった。


レクター葬儀社の作業室では、四人が最後の確認をしていた。


机の上には、複写された証拠が束になっている。


アレスの手紙。

和平文書の写し。

勇者制度設計案。

英雄管理局基本綱領の該当箇所。

聖女制度連携記録。

魔王指定効果測定。

ルシアン、セオ、リナ、カイル、ガルディアの記録要約。

ロアンの遺言抜粋。


ミレイはそれらを薄い紙束に分けていた。


「全部配るのは無理。だから三種類作った。短いやつ、中くらいのやつ、全部入り」


「全部入り?」


「命知らずの新聞書きと、記録好きのギルド代表向け」


「そんな人がいるのですか」


「いる。真実より面白いものが好きな人たち」


それは頼もしいのか不安なのか分からなかった。


グリムは祭壇周辺の地図を広げている。


「兵の配置はここ。英雄管理局の職員は祭壇裏。王国軍は左右。民衆の前に出るなら、この三か所で止められる」


「グリムさん一人で?」


エリシアが尋ねる。


「一人じゃない」


その時、裏口から数人の男たちが入ってきた。


かつての冒険者仲間らしい。

片目の弓使い、杖をついた老戦士、無口な女剣士。


グリムは短く紹介した。


「昔の借りがある連中だ」


ミレイが小声で言う。


「グリムさん、ちゃんと友達いたんだ」


「聞こえてるぞ」


ノアは彼らに頭を下げた。


「危険なことになります」


片目の弓使いが笑った。


「葬儀で暴れるのは初めてだ。面白そうじゃないか」


老戦士が肩をすくめる。


「俺たちは、国を壊しに行くわけじゃない。若い葬儀師が弔辞を最後まで読めるようにするだけだ」


それだけで十分だった。


エリシアは自分の祈祷文を見つめていた。


聖務庁から渡された正式な祈り。


勇者アレスは、最後の魔王を討ち、王国に光を取り戻しました。

その魂は神の御許へ導かれ、永遠に王国の剣として輝くでしょう。


彼女はそれを静かに畳んだ。


代わりに、自分で書いた短い紙を懐に入れる。


「読まないのですか」


ノアが聞くと、エリシアは首を振った。


「読みません。明日、私は聖務庁の祈り手として祭壇に立ちます。でも、祈るのは王国のためではありません」


「何を祈るのですか」


「死者の言葉が、生者に届くように」


その言葉は、もう聖女見習いのものではなかった。


ノアは自分の弔辞を見た。


英雄管理局から渡された公式弔辞。


勇者アレス・グラント。

最後の魔王を討ちし剣。

恐れを知らぬ王国の光。

魔王の爪を胸に受けながらも、最後の一撃で災厄を終わらせた英雄。


嘘。


整った嘘。


ノアはその横に、自分の弔辞を書いていた。


まだ完成していない。

何度も書き直した。

真実をすべて一度に叫べば、人々は受け止められない。

だが、曖昧にすれば、また物語に飲まれる。


最初の一文だけは決めていた。


勇者アレスは、魔王を討って死んだのではありません。


それを言った瞬間、国葬は止まる。


そこから先は、時間との勝負だ。


「怖いですか」


エリシアが尋ねた。


ノアは少し考えて、頷いた。


「怖いです」


「私もです」


二人は静かに笑った。


怖くない英雄になど、なりたくない。

カイルも怖かった。

ユージンも怖かった。

リナも、セオも、ルシアンも、きっと怖かった。


それでも、彼らは何かを守ろうとした。


ノアたちも同じだ。


ミレイが作業を終え、紙束を革袋に詰めた。


「証拠配布は任せて。私、逃げ足には自信あるから」


「捕まらないでください」


「そっちこそ、弔辞を読み切る前に刺されないでよ」


冗談のようで、冗談ではなかった。


グリムがノアに小さな短剣を差し出した。


「持っていけ」


ノアは首を振った。


「使えません」


「使えなくても、持て」


「葬儀師が祭壇に刃を持つわけにはいきません」


グリムは不満そうに眉を寄せた。


「お前は本当に面倒だ」


「よく言われます」


代わりに、ノアは白手袋を手に取った。


父の使っていたものだった。

古くなっているが、丁寧に洗われている。


「明日は、これを着けます」


グリムはそれ以上何も言わなかった。


夜が深まる頃、ノアは一人で作業室に残った。


台帳を開く。


これまでの死者の名が並んでいる。


カイル。

リナ。

アルト。

ユージン。

セオ。

ガルディア。

ルシアン。

ロアン。

イザーク。


そして、空白の欄。


アレス・グラント。


ノアはそこに、まだ死因を書かなかった。


明日、棺の前で確かめる。

明日、民衆の前で伝える。


ノアは父の白手袋を胸に当てた。


「父さん」


小さく呼ぶ。


「明日、僕は弔辞を読み換えます」


父は、弔辞を書き換えられた男だった。


王国に弔辞を奪われ、死者の名を消され、それでも記録を残した。


今度は、ノアが弔辞を書き換える。


王国の嘘から、死者の真実へ。


「復讐ではありません」


自分に言い聞かせる。


「これは、葬儀です」


窓の外で、鐘楼の影が月に浮かんでいた。


国葬まで、あと一日。


最後の勇者葬儀が始まろうとしている。

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