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勇者葬儀社 〜世界を救った英雄の死因が、毎回おかしい〜  作者: swingout777
第7章 魔王の遺体を弔う

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第24話 魔王領の真実

ミレイはガルディアの遺体を見るなり、珍しく黙り込んだ。


「魔王って、もっと角が大きくて、牙があって、いかにも人を喰いそうな顔してるものだと思ってた」


「実物を見るのは初めてですか」


「生きてるのも死んでるのもね」


彼女は手袋をはめ、慎重に遺体を確認した。


「拘束痕は生前。かなり強く縛られてる。少なくとも数時間以上」


「捕虜だった可能性は」


「高いね。胸の槍傷は致命傷だけど、戦闘中に真正面から受けた傷じゃない。膝をついているか、倒れている状態で刺されてる」


ノアは息を詰めた。


「処刑ですか」


「そう見える」


まただ。


勇者カイルは背中から刺され、魔王に殺されたことにされた。

魔王ガルディアは拘束された後に刺され、討伐されたことにされている。


敵味方が違うだけで、死の整え方は似ていた。


ミレイはさらに首元の皮膚を確認した。


「おかしいな」


「何が」


「魔王級災厄って、強い呪いの核を持ってるはずなんだけど、この人にはそれがほとんどない。魔力は強いけど、災厄というより領主級の守護結界に近い」


「守護結界?」


「土地を守る魔術。攻撃じゃなくて、防御に特化してる」


ノアはガルディアの手を見た。


大きな手だった。武器を握る者の手でもあるが、指には古い火傷と細かな傷がある。鍛冶師か、農民のような手にも見えた。


「この方は、本当に人間の村を襲ったのでしょうか」


「それを知るには、向こう側の話を聞くしかないね」


向こう側。


魔王領。


ノアは王国の地図を開いた。北東辺境ノクス領。王国の記録では、魔族が占拠する危険地帯とされている。だが王都からは遠く、実際に見た者は少ない。


その時、グリムが言った。


「生き残りがいる」


ノアは顔を上げた。


「知っているんですか」


「王都の外れに、魔王領から逃げてきた者たちが隠れている。捕まれば尋問されるから、表には出ない」


「なぜ知っているのです」


「棺桶職人には、死体以外の逃げ道も見える」


よく分からない答えだったが、グリムはそれ以上説明しなかった。


夜、ノアとグリムは王都南端の廃倉庫へ向かった。エリシアも同行した。


「危険です」


ノアは言ったが、彼女は首を振った。


「魔王の遺体を弔うなら、私も知らなければなりません。祈れるかどうかは、見てから決めます」


廃倉庫の中には、十数人の魔族が身を寄せ合っていた。


角のある者。耳の尖った者。肌の色が人間と少し違う者。だが、ノアが想像していた怪物ではなかった。


疲れた顔の母親。

腕を怪我した老人。

毛布にくるまった子ども。


彼らは、戦争から逃げてきた避難民だった。


グリムが奥にいた老女に声をかける。


「ガルディア・ノクスのことを聞きたい」


老女の顔が強張った。


「領主様を、知っているのか」


ノアは一歩前へ出た。


「ご遺体を預かっています」


倉庫の中がざわめいた。


子どもが母親の服を握る。老人が目を伏せる。誰かが小さく泣き出した。


老女は震える声で言った。


「領主様は、死なれたのか」


「はい」


ノアは深く頭を下げた。


「お悔やみ申し上げます」


その言葉に、老女は驚いたようにノアを見た。


人間から悔やみの言葉を受けるとは、思っていなかったのだろう。


「王国は、ガルディア様を魔王と呼んでいます。人間の村を襲ったと」


老女の目に怒りが宿った。


「襲ったのは王国軍だ」


倉庫の中が静まり返る。


老女は続けた。


「ノクス領は、小さな土地だ。人間も魔族も、昔は境界で商いをしていた。領主様は争いを好まなかった。人間の村とも水路を分け合っていた」


「では、なぜ魔王指定を」


「鉱脈が見つかった」


その一言で、ノアはすべてが変わった気がした。


老女は苦しそうに語る。


ノクス領の山で、魔力鉱石の鉱脈が見つかった。王国はそれを欲しがった。ガルディアは採掘権の共有を求めたが、王国軍は魔王討伐を名目に軍を進めた。


人間の村を襲ったという記録は、王国軍が境界の村を焼いた事実を隠すために作られたものだった。


「領主様は、村を守ろうとした」


老女は言った。


「魔王軍などなかった。いたのは、鍬を持った農民と、古い槍を持った衛兵だけだ」


エリシアは青ざめていた。


「でも、王国の布告には、魔王ガルディアが人間の村を焼いたと」


「焼いたのは王国の火だ」


老女の声は低く震えた。


「領主様は、子どもたちを逃がすために最後まで結界を張っていた。王国軍に捕らえられた時も、抵抗しなかったと聞いた。人質を殺すと言われたから」


ノアは、ガルディアの手首の拘束痕を思い出した。


捕虜。

処刑。

討伐として発表。


「ガルディア様のご遺族は」


老女は首を振った。


「奥方は戦火で亡くなられた。娘君は……行方が分からない」


その時、倉庫の隅で小さな影が動いた。


角の片方が欠けた少女だった。年は十歳ほど。母親らしき女性が慌てて彼女を抱き寄せる。


ノアはそれ以上、尋ねなかった。


聞かなくても分かった。


ガルディアの娘だ。


少女はノアを睨んでいた。恐怖と憎しみと、泣きたいのを我慢している顔。


エリシアが一歩近づこうとしたが、少女は身を引いた。


「人間の祈りなんかいらない」


その言葉が、倉庫に刺さった。


エリシアは立ち止まる。


ノアも何も言えなかった。


少女の言葉は正しかった。


王国は彼女の父を魔王と呼び、殺し、晒そうとしている。

その王国側の人間が、今さら祈りたいと言っても、届くはずがない。


老女が少女をなだめようとしたが、ノアは首を振った。


「構いません」


彼は少女に向かって静かに言った。


「祈りを受け入れるかどうかは、あなたが決めることです」


少女は黙ってノアを睨んだままだった。


ノアは老女に向き直る。


「ガルディア様を、見世物にはしません」


「できるのか」


「分かりません。ですが、葬儀師として、死者を晒すためだけに返すことはできません」


老女はノアの顔をじっと見た。


「人間の葬儀師が、魔王を弔うのか」


「魔王としてではありません」


ノアは答えた。


「ガルディア・ノクスという、一人の死者として」


倉庫の奥で、少女が目を伏せた。


その小さな反応だけで、ノアは十分だった。


王国の記録とは違う死が、また一つ棺の中にある。


そして今度の死者は、敵と呼ばれてきた側の人だった。

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