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第7話 消えた慈善公演の売上金

慈善公演の売上は、歌劇場の舞台袖より会計室の方でよく歌う。


 私は北辺劇場の古い巡業精算書と、王都で押しつけられた慈善公演不足分の控えを並べた。金額がぴたりと重なる。しかも入金日と出金日の間に、北辺巡業補助金の振替番号が挟まっていた。


「つまり、王都で足りなくなった金を、北辺巡業の補助金で埋めた」


 劇場会計係のマルタが顔をしかめる。三十九歳、数字に厳しい女性だ。


「でも補助金が入った記録はあるのに、こちらの金庫には見当たらないわ」


「途中で二度帳簿を書いています」


 私は線を引いた。王都から北辺へ送るはずの第一帳簿と、監査提出用の第二帳簿。後者だけが妙に綺麗で、端数処理が揃いすぎている。実務をしていない人間が、見栄えだけ整えた数字だった。


「慈善公演も同じです。観客から集めた寄付金を一度別口へ逃がして、巡業補助金で穴埋めした」


「それでお前に責任を?」


 フリードリヒの声が低くなる。


「配役台帳官は会計の最終確認欄にも立ち会います。舞台上の顔ではなくても、責任札だけは付けやすいんです」


 王都歌劇場では、表に立たない人間ほど都合よく責任を載せられる。主役が転べば代役を出す。金が消えれば裏方へ載せる。それだけの話だ。


 私は精算書の間から一枚の招待券控えを見つけた。慈善公演特別席、A-1、A-2、A-3。購入者欄は空白なのに、寄付額だけ最高額で記載されている。


「空席に寄付を載せている」


 マルタが苦笑した。


「舞台よりよほど芝居じみてるわね」


「ええ。でも客席は嘘を覚えません」


 私は観劇札番号の照合表を作り始めた。席番ごとに実在する客か、架空客か、支払いは現金か寄付名義か。会計と客席が繋がれば、慈善公演の穴は全部見える。


「今夜中に一覧へします」


「無理はするな」


 フリードリヒが言った。


「無理ではありません。これは、私が王都で奪われた朝の続きです」


 責任を押しつけられたまま終わらせる気はない。消えた売上金の行方を辿ることは、そのまま自分の名を取り戻すことでもあった。


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