第8話 妹から届いた金箔の招待状
金箔押しの招待状は、だいたい中身が薄い。
北辺劇場の事務室へ届いた封筒を開けると、案の定、王都歌劇場の春期特別夜会への招待だった。差出人はリゼット・ヴェルナー。文面には、慈善公演大成功のお祝いと、新しい婚約披露を兼ねるとある。
『地味な裏方仕事もお似合いですが、たまには本物の舞台をご覧になって?』
最後の一文まで、見事に嫌味で統一されていた。
「燃やします?」
グレータが真顔で言うので、私は吹き出した。
「証拠が減るので却下です」
招待状の裏面を光に透かす。用紙は王都歌劇場専用の厚紙だが、差出区分は個人私信ではなく、劇場告知の一括発送になっている。つまり彼女は個人的な手紙に見せかけて、劇場の経費でばらまいていた。
「しかも発送欄の印が、慈善公演と同じ旧型ですね」
私は台帳へメモを足す。リゼットのやることはいつも派手で、詰めが甘い。
だが、同封されていた演目表を見て私は眉をひそめた。《白銀の花嫁》の主演はもちろんリゼット。けれど第二幕の大詠唱部分が、私が三年前に作った改訂版のままだった。公式採用されていない、私の私案の旋律。
「どうしてこれを」
私は呟く。あの旋律は、配役台帳の個人メモ欄にしか書いていない。
「盗まれてたの?」
グレータが覗き込む。
「ええ。台帳から」
旋律まで奪って、自分のものとして歌うつもりなのだ。怒りはあった。けれどそれ以上に、ようやく手元へ転がってきた糸にも見えた。
「王都へ行く口実ができました」
「夜会に?」
「いいえ、その前に舞台袖です。あの旋律を誰がどこで写したか、必ず痕跡が残っている」
フリードリヒは私の手から招待状を受け取り、裏の印を一瞥した。
「行くなら護衛を付ける」
「観劇ですか」
「調査だ」
言い方は固いのに、その実、私が一人で王都へ向かわないよう先回りしている。私は金箔の封筒を丁寧に畳み、証拠封筒へ入れた。
妹が送ってきたのは、見せびらかしの招待状だ。けれど私にとっては、舞台裏へ戻るための通行証になった。




