↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/20

第19話 もう端役の声ではない

監査会の翌日、王都歌劇場は奇妙なくらい静かだった。


 廊下ですれ違う職員たちは皆、私へ気まずそうに道を譲る。昨日まで私の存在を見て見ぬふりをしていた人たちだ。だが謝罪も歓迎も、今さら私には軽すぎる。


 支配人室へ呼ばれ、復職と配役管理部門の昇格を打診された。待遇も権限も、以前より上だという。


「ご検討いただければ」


 丁重な口調になった支配人代理へ、私は穏やかに返した。


「辞退します」


「……理由を伺っても?」


「端役にしておくには便利で、主役に戻すには遅すぎたからです」


 室内が凍る。だが私の声は不思議なくらい静かだった。怒鳴らなくても、もう届くからだ。


 歌劇場を出ると、正面馬車寄せにフリードリヒがいた。いつもの無愛想な顔で、けれど私が近づくのを待っている。


「終わったか」


「ええ」


「戻るか」


 その二文字だけで十分だった。私は頷きかけ、それから少しだけ意地悪く尋ねる。


「北辺劇場の配役台帳官として?」


「もちろん」


「それだけ?」


 彼はほんのわずかに息を止め、それから鞄から封筒を出した。もう見慣れた無骨な字だ。


『北辺劇場の新しい芸術監督候補へ。あなたの名で幕を上げてほしい。仕事でも、それ以外でも』


 私は読み終え、思わず笑った。


「手紙にすると強いんですね」


「口だと遅れる」


「返事は」


「今でも後でもいい」


 私は封筒を胸へ押さえた。


「なら、半分だけ今」


「半分?」


「仕事の返事は、はい。残り半分は」


 私は彼を見上げる。


「北辺の最前列で、ちゃんと聞かせてください」


 その時の彼の表情は、拍手の直前みたいに少しだけ柔らかかった。もう私は端役の声ではない。誰かに割り振られるだけの席でもない。


 自分で選んだ舞台へ、自分の足で戻る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。