第16話 王都凱旋の特別公演
王都歌劇場へ戻った私は、追い出された女ではなく、北辺劇場の責任者として入場した。
監査会は午後から。だがその前に、フリードリヒは王立文化院の許可を取り、北辺劇場による特別演奏を舞台で行う枠を確保していた。
「話だけでは客席は覚えない」
彼が言う。
「だから、耳にも残す」
演目は《雪明かりの塔》の抜粋。北辺劇場の歌い手たちは緊張していたが、客席の反応は予想以上に良かった。王都の観客は派手な装飾に慣れていても、真っすぐ届く声にはちゃんと振り向く。
終演後、そのまま監査会場へ向かう。私が差し出した証拠箱の中身に、会場は目に見えてざわついた。
「まず、慈善公演前夜の主演契約書です」
私は破られた契約書を繋いだ写しを広げた。
「主演予定者は私。変更には本人署名が必要でしたが、署名欄だけが破り取られています」
次に偽署名綴り、改ざんされた配役台帳、旧型印の招待状を並べる。
「続いて、北辺巡業補助金と慈善公演売上の振替記録です」
裏会計帳を開くと、会計監査官たちの顔が強張った。
「空席寄付、架空来場者、影歌への補助金流用。全部、表ではなく裏で処理されています」
エーミールは途中から口を挟もうとしたが、以前のような余裕はなかった。リゼットも青い顔で座っている。
だが決定打は、まだ残してある。
「最後に」
私は喉薬納品控えと影歌補助表を持ち上げた。
「“本物の歌姫”が、どの声で歌っていたのかを示します」
会場が一段と静かになる。幕が上がる直前の、あの緊張に似ていた。




