↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/20

第14話 破られた代役契約書

最後の決定打は、衣装箱の底から出てきた。


 マティルデが修繕中の主役衣装の裏布をほどくと、中から紙片が落ちたのである。汗と香油で硬くなっていたが、広げてみれば契約書の一部だった。


『主演予定者 クラウディア・ヴェルナー』


 その一行だけで、胸の奥が大きく脈打つ。さらに下には王立歌劇場と北辺劇場の連名印、報酬額、巡業日程。慈善公演の成功次第で、私はそのまま北辺巡業主演として派遣されるはずだった。


「破って隠したのね」


 私は紙片の端を揃えた。残りの部分は別の衣装箱と照合した結果、三枚に分かれて見つかった。誰かが急いで処分しようとして、衣装の裏へ押し込んだらしい。


 契約書を繋げると、もっとはっきりした。契約変更には本人署名と両劇場承認印が必要。だが私の署名欄だけが破り取られている。つまり、私は同意していない。


「これで終わりです」


 私が言うと、フリードリヒは静かに頷いた。


「王都へ戻る準備をしよう」


 夕方、私は証拠を演目順ではなく『嘘の順』に並べ替えた。偽署名、改ざん台帳、空席寄付、喉薬納品、裏会計帳、破られた契約書。ひとつひとつでは言い逃れができても、全部並べれば幕は下りる。


 作業を終える頃、グレータが小さな箱を持ってきた。中には修理済みの舞台鈴と、一枚の新しい席札がある。


「王都凱旋公演用ですって」


 席番号はA-1。裏には短く『今回は中央で聴く』と書かれていた。


 私は思わず笑う。


「無口な人のくせに、こういう時だけ分かりやすい」


 王都へ戻るのは怖くないわけではない。だが、今の私は追い出された日の私とは違う。奪われた記録だけでなく、自分が立つはずだった舞台の契約書まで手元にある。


 もう、誰にも勝手に端役へ書き換えさせない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。