表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/20

第10話 北辺劇場の再開幕

再開幕の夜、割れていた舞台鈴は澄んだ音で鳴った。


 修理された緞帳の前で、私は配役台帳を抱えて立つ。演目は小編成の朗読歌劇《雪明かりの塔》。派手さはない。だが歌える者が歌い、弾ける者が弾き、客席の枚数だけきちんと札が売れた、嘘のない初日だった。


「満席ではないけれど、十分ね」


 グレータが客席表を見ながら笑う。百二十席中八十七席。北辺劇場としては上出来だ。


 私が幕脇で最終確認をしていると、ルートヴィヒが譜面を持って駆け込んできた。


「第二場の語り、誰か一人足りない」


「私が入ります」


 昔なら当たり前にやっていたことだ。私は配役台帳へ自分の名を追記し、語りの位置へ立つ。主役ではない。だが、観客へ届く声を支える役は嫌いではなかった。


 舞台へ出た瞬間、最前列中央のA-1が目に入る。そこにフリードリヒが座っていた。いつも通り無表情なのに、手元の席札だけは私の机にあったものと同じ番号だ。


 朗読の一節を終え、袖へ戻る。客席から拍手が起こる。その量は王都歌劇場ほど多くない。けれど不思議なくらいまっすぐで、誰の虚飾も混ざっていなかった。


 終演後、売上札と寄付箱を照合すると、金額は一枚のずれもなく一致した。私は思わず息を吐く。


「良かった」


「そんなに感動することか」


 フリードリヒが近づいてくる。


「しますよ。合うべき数字がちゃんと合うのは、美しいので」


 すると彼は、珍しくほんの少しだけ笑った。


「なら、この劇場はこれから綺麗になる」


 拍手の余韻が残る客席で、その言葉は妙に温かかった。王都では舞台へ立つたび、誰かの都合で役を変えられた。けれど北辺では、私が台帳へ書いた通りに幕が上がる。


 再開幕は小さな一歩にすぎない。だが観客の前で鳴った鈴の音は、ここがまだ終わっていないと証明してくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ