ギロチンの前の静寂
その日の午後。湾岸スタジオの楽屋口は、異様な緊張感に包まれていた。
Showgoが局入りするや否や、遠巻きに見つめるスタッフたちの視線が痛いほど突き刺さる。ひそひそとした囁き声には、間違いなく「AV女優」「下手くそ」という単語が混じっていた。
現代の炎上は、着火から爆発までのタイムラグが極端に短い。
朝に記事が出た時点で、X(旧Twitter)のトレンドにはすでに「Showgo」「白石マリア」「セックス下手」というワードが並んでいた。
ネット民たちは、ここぞとばかりにキーボードを叩きまくっていた。
『ロックバンドのボーカルがAV女優に下手くそ認定されるとかダサすぎwww』
『曲はあんなに激しいのに下半身は不器用なんだな』
『ファンやめます。不潔です。女性をそういう対象としてしか見てないんですね。失望しました』
相変わらずの光景だった。彼らは真剣に怒っているわけではない。ただ、引きずり下ろせる高みにある人間を見つけて、安全な場所から石を投げたいだけなのだ。少しでも道徳のレールを外れた人間には、何を言っても許されると信じている。正義という麻薬に酔いしれた群衆ほど、厄介なものはない。
楽屋のソファに深く腰掛けたShowgoは、ギターの弦を弾きながら、目を閉じていた。
「Showgoさん、本番五分前です」
顔面蒼白の武田が声をかけてくる。
今日の番組は、深夜に放送される音楽番組『ビート・スクランブル』。
笑い界のトップに君臨する大物芸人、浜本だった。浜本は、予定調和を極端に嫌い、ゲストの痛いところを笑顔で抉り出すことで知られる男だ。今回のスキャンダルを、彼が見逃すはずがなかった。
「武田、プロデューサーには何か言われたか?」
「『一応、スキャンダルの件には触れない方向で台本は作ってますが、浜本さんがアドリブで振ってきたら、うまく躱してください。最悪、編集でカットしますので』と言われました」
「カットねぇ……。そんな逃げ腰じゃ、余計にネットの連中が喜ぶだけだ」
Showgoは立ち上がり、レザージャケットを羽織った。
「行くぞ。ロックンロールの時間だ」




