黒い布の男
ある朝、タエ、ジョナサンはパッチワークに使うキルティング生地や糸を買いに市場に出ていた。市場には色とりどりの生地や刺繍糸が並んでいる。
ただ、最も人気なのはやはりパッチワーク団の作品だろう。今も作品を販売する露店には多くの人が集まっている。
「見てくれ、ばあさん。このパッチワーク凝ってるぜ。このウサギの刺繍なんてまるで今にも動き出しそうだぜ!」
「えぇ、あら!その刺繍、リリーちゃんの作品みたいよ。素敵ねぇ」
鉄の爪との戦いの復興を通して、街の人々の技術は大きく向上したように思う。
「ばあさん。それじゃ俺は向こうで刺繍糸を見てくるからよ」
「わかったわジョナサン。私はまだこの辺りで生地を見ているから」
ジョナサンは返事の代わりに軽く手を振って答えた。
ジョナサンがさったのち、タエは人混みの中、
ある一人の男に目を向ける。
「…あの人、何してるのかしらねぇ」
男は全身を黒い布で覆い、鋭く、ぎょろぎょろとした目つきで街を見回していた。
その目からは、この街のものとは異なる、殺気と圧迫感が滲み出ている。パッチワークを見る目も、冷たく澱んでいる。
「こんにちは、旅の人ですか?」
タエが声をかけようとした途端、男は身に纏っていた黒い布をひるがえし、一息つく間も無く消えたのだ。
タエが茫然としているとすぐ隣にはジョナサンがいた。買い物は済んだらしい。
「ばあさん。今の見たか」
「えぇ。あなたも見ていたのね、ジョナサン」
「最近、近くの街で妙な集団を見かけるそうだ」
「みょうな集団?」
「さっきのあいつみたいに、
黒い布で身を隠した奴ららしい。そいつらは布や糸を操る力があるんだとよ」
タエは静かに針を握りしめた。
「奴らはこう呼ばれてる。
影の織工ってな」
「影の織工...布は、人を包むもの。でも、使い方を間違えれば…」
タエの針が止まるのはまだ先のようだ。




