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幕間 夜会からの脱出

Case6でアルフレッドの自白を引き出した後の話です

 アルフレッドが力なく蹲ったのを見て、すぐにテラスから広間に戻る。

 そして慌てずゆったりとした動作で出口に向かう。

 目立たないように、誰の目にも止まらないように、ゆっくりと。

 

 今回、この夜会は国王陛下主催の盛大かつ正式なもの。

 招待客はとても多いが、国王陛下も参加する夜会であるため出入りのチェックは厳しい。

 私も貴族の端くれではあるものの、まだ成人していないため招待状は来ない。

 だから侯爵家に依頼して遠縁のお嬢さんの招待状を使い、この夜会に潜入している。

 

 私がなりすましだとバレたら侯爵夫妻も罪に問われるため細心の注意を払い、入場後はヘンリーとエドワードに壁になってもらい、時がくるまで彼らの背後に隠れていた。

 バレたら大変なことになるこの夜会ではなく、別の機会を作れないかと画策したものの、アルフレッドは最近外出を控えていて(テオに調べてもらった)外で出会うタイミングが作れなかった。

 

 最初で最後のチャンスが上手くいって本当に良かったと胸をなでおろす。

 もし彼に触れても何も見えなかった場合のバターンも考えていたが、降霊したとでっち上げるような手はあまり使いたくなかったから彼女が出てきてくれて助かった。

 

 彼が自首をして、自らの口で犯行を告白してくれるのが一番いい。

 でもそうならなかった場合のことも考えて、あのテラスにはヘンリーとエドワードが隠れていた。

 彼の自白も聞いているから、そこから裏を取って、きちんとした証拠を集めてくれるだろう。

 ついでに言えばテオも私を護衛するために隠れていた。しかも給仕の格好で。広い会場の中、アルフレッドを探してくれたのもテオだったが、どうやって夜会に潜入したのかは聞かない方がよさそうだ。

 

「追いつきました」

 もうすぐ広間の出口にたどり着くというところで後ろから声がかかる。

 振り向くとエドワードがいた。左手を出されたので、その上に右手を載せる。

 さすが公爵令息。とてもスマートにエスコートをする。ヘンリーではこうはいかない。

 

「ヘンリーは?」

「まだあの場に」

「そう」

 誰が聞いているかわからない。最低限の言葉で会話する。

 エドワードが扉を開き、二人で大広間の外に出る。

 

 ふう。

 

 ため息をひとつ。大広間を出てもまだここは王宮。王宮の門を出るまでは発覚の危険を孕む。それでも少し、安堵した。

 

「大丈夫ですか?顔色が悪いようですが」

「少し、彼女の力が強かったので」

 セシルはアルフレッドに執着するあまり、彼に近づいた私を敵と見なしたようで、彼女の怨念のようなじっとりと重い空気がまとわりついて息苦しかった。

 あんな彼女が取り憑いているのだからアルフレッドの体調不良もかなりのものだろう。

 自業自得とはいえ、少しだけかわいそうに思う。

 あのままではたぶん、彼は長く生きられないだろうから。

 

 もちろん最初は彼女を説得しようとした。

 穏便に、解決する方法をできれば取りたかった。

 しかしそれは無理だった。こちらの話を聞くことなく、アルフレッドのことをどれだけ愛しているかを一方的に語っていた。彼に殺されたことすらも、彼とずっと一緒にいられると喜んでいた。私の言葉は届いていないようだった。

 彼女の思いが強すぎて、私には何もできなかった。


 彼女から得られた証言はベアトリスに手紙を送ったということと、アルフレッドの手で殺されたということだけ。

 あとはエドワードから聞いた捜査情報から推理したことを、アルフレッドにぶつけた。

 幸い、推理は間違っていなかったようで、彼の自白も取れたから、冤罪で牢につながれているベアトリスを救うことができると思う。

 あとはヘンリーとエドワードに頑張ってもらうしかない。

 

 少し気が抜けたようで足元がふらついたが、エドワードがしっかりと支えてくれた。

 

「ありがとうございます」

「いえ」

 公爵令息であるエドワードの顔は知れ渡っているようで、夜会がまだ盛況の中で出口に向かっていても呼び止める人はいない。

 

 それも計算の上で、エドワードに付き添ってもらっている。

 ヘンリーやテオではできない重要な役回りだ。


 王宮から出る扉の前に立つ衛兵が外に出ようとする私たちに「どうなされました?」と声をかける。

「こちらの令嬢が、体調を悪くされたようで馬車までの付き添いをね。何か記録が必要かな?私はエドワード・マクスウェル。王国警備隊所属だ」

「ご尊顔には覚えがあります。どうぞ、お気をつけて」

 

 衛兵が扉を開ける。私はハンカチで鼻と口を隠し、心持ち俯き加減で外に出る。

 侯爵家の馬車を呼び、乗り込むとそこには既にテオがいた。

 

「あとは頼む」

 少し不機嫌そうにエドワードがテオに向けて言い、「お気をつけて」と私にも声をかける。

 

「ありがとうございました」

 そう頭を下げて馬車の扉を閉じる。馬車が動き始めると、どさりと背もたれに体を預ける。

「お疲れさまでした」

「ええ。疲れたわ、本当に」


 

 レイラさんを乗せた馬車が大門に向かう。

 ここまでくれば、問題なく出られるだろう。

 そもそも王宮に入る人は厳重にチェックされるが出る方はそうでもない。

 しかも私が隣にいて止められるということはまずない。

 馬車にも侯爵家の紋が入っている。大門でも止められることはないはずだ。


 無事にレイラさんを脱出させることができて安心したけれど、本音を言えばもっと一緒にいたかった。

 今日のレイラさんはとても可憐だった。

 いつもの妖艶さはなりを潜め、成人を迎えたばかりの少女のような初々しさがあった。

 夜会の前にホテルで段取りの打ち合わせをした時に、今日のレイラさんのいでたちを見て「レイラさんには妹もいるのか?」と思ったくらいだ。

 いつものフェイスペールもなく、顔全体が見えるのがまた新鮮だった。

 会うたびにレイラさんのことが好きになっていく。

 

 今日はレイラさんのエスコート役も仰せつかった。

 ヘンリーでも、あいつでもなく私に与えられた役目。

 それは家柄が関係しているのは自分でもわかっているけれど、それでも嬉しかった。

 

 自分の手のひらの上にのせられたレイラさんの華奢な手。

 二言三言交わす言葉は、初めて会った時のような冷たさや鋭さはなく、柔らかで温かな声音だった。

 そして足元がふらついたレイラさんを支えたあの瞬間。

「このまま時が止まってほしい」

 と切実に思ったし、至近距離で見つめられて「ありがとうございます」と言われた時、顔に全ての血液が集まったんじゃないかというくらいカッと熱くなった。

 

 できることなら私も一緒に馬車に乗りたかった。

 様々な後始末やら明日以降の準備やらで私とヘンリーはこの後も職場に戻って仕事をしなければならない。

 あいつにレイラさんを任せるのは業腹だけれども、仕方ない。

 一人で帰らせて何かあったらと考えると仕事も手につかなくなるだろうから。

 

 可憐なレイラさんの笑顔を思い出しながら広間で待つヘンリーの元に急いだ。


次の幕間で第一章完結となります。

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