第16話 執念
一射目の“桃”が外れる瞬間、山崎がスイッチを押す。
すると炸裂音が響き、二発目の“桃”のサーマルカメラに、弾けたように暴れる“黒影”が映し出される。
暴れる“黒影”の胸鰭付近に、響の操縦する“桃”弐型【刃】が突き刺さり、高出力のノイズを発生させ、“黒影”をさらに暴れさせた。
知多一尉:「“桃”弐型【刃】、二発目着弾。
“桃”弐型の電磁ノイズによる麻痺にも成功しました」
一発目の“桃”が炸裂音をさせる瞬間、一度ヘッドホンを外していた知多一尉が炸裂音の直後にヘッドホンを再度装着し、暴れ狂う“黒影”に対する攻撃成功の知らせをする。
無線から、会議室の歓声が聞こえる。
議長:『良くやった。
だが、“桃”が麻痺とセットになったとはいえ、薬が完全に効くまでに麻痺が解ける可能性もある。
すぐにその場を離脱してくれ』
白州:「承知しました。
潜水艇、後退します」
潜水艇のモーターを起動し、旋回せず、沼津港方面へと急速に後退してその場を離れた。
まだ200m以上先だったはずだが、潜水艇に伝わる振動が、“黒影”が暴れていることを感じさせた。
響:「現代の頼政は、山崎くんだったっスね。
頼政が落として、猪早太が胸を貫いた、平家物語のまんまだったっス」
山崎:「AIが追尾して、僕は外れた時にボタンを押しただけなので」
響:「でも、外れた時に爆発的な音波で禍津鰐の発達した聴力を麻痺させるのを提案したのも、直撃した時に電磁ノイズで麻痺させるのを提案したのも、山崎くんスよね?
それに、山崎くんの設定で“黒影”に迫ったんスから、一射目を掠らせたのも、山崎くんってことっスよ」
知多一尉:「全て山崎さんの指示あってこその作戦でした。
山崎さんが通信が途絶える可能性に事前に気づいていなければ、自分達もあそこまで冷静に──」
ヘッドホンを外した知多一尉が計器類から目を離して山崎に語りかけている時、横の計器に視線を移した白州の方が、ビクッと跳ね上がる。
白州:「ソナーに反応あります!」
会話をしていた3人が前を見た瞬間、濁った暗闇から、潜水艇を飲み込みそうな程大きく開いた口が目の前に迫っていた。
極限の恐怖に染まった、声にならない声が4人の誰からともなく響く。
碧:『山崎くん!』
ボンッ!
全員が生を諦めた瞬間、小さな窓からの視界が白に覆われ、潜水艇は激しく後ろに突き飛ばされる。
“黒影”の生命活動の著しい低下を検知し、禍津鰐の大質量を支えるためのエアバッグが潜水艇の目の前で展開され、それに弾き飛ばされていた。
議長:『潜水艇!大丈夫か!』
山崎:「……無事…なようです。
すみません。油断しました。
潜水艇にぶつかったエアバッグは口の外に出きらず、刃の間で展開し、穴が空いてしまったようです」
目の前で大量の泡を吐き出して萎んでいくエアバッグを見ながら報告する。
知多一尉:「申し訳ありません。
帰投前にソナーから目を離した、自分の責任です」
議長:『全員が無事で、黒影が討たれたのだ。
失敗などはなかった。
君の上官も歓喜に酔い、目を離していて何も見ていない。
現場には、昨年オスの死体をサルベージした潜水チームを送る。
“びゅうお”には連絡を入れておくから、君達は帰港してくれ』
白州:「……それ…なんですが、今の衝撃で後部をぶつけ、プロペラがどこかに干渉してしまったようです。
浮上は問題ないようですが、救助をお願い出来るでしょうか…」
無線から、ため息が聞こえ、潜水艇内の4人がビクッとする。
海雲丸:『こちら海雲丸だ。
俺が引き返すのが早い。
引っ張ってやるから浮いてこい』
潜水艇が浮上すると、雨は止み、波は少しだけ穏やかになっていた。
潜水艇上部のハッチを開け、山崎が顔を出すと、雲の切れ間からは満月が見えていた。
遠くから聞こえる漁船の音に、山崎はライトを振った。
1月頃、付き合いたての山崎と碧のオンラインミーティング
山崎:「──というように、外した場合は後続に影響を与えない音爆弾で動きを止めて、二発目で確実に当てた上で電磁ノイズを出して、前回のように追撃を受けないようにしたいんです」
碧:『飛天御剣流の“隙を生じぬ二段構え”というやつですね。
天翔龍閃が一撃目を外しても、刃が起こした真空が相手を捉え、勢いを増した二撃目が確実に当たる…。
それに、ザボアザギルには音爆弾が効くというのは一般常識です。
すぐに提案として上げておきます!
…ただ、音爆弾はともかく、電磁ノイズは無人艇と同等のものは詰めませんよ?』
山崎:「着弾後はどちらにせよ逃げますし、麻痺しなくても、聴覚とロレンチーニ器官さえ乱すことが出来れば追撃を受けにくいと思うので」




