第15話 深層の覚醒
山崎:「…響くん、恐らくそのVRは直前で使えなくなります。
現在海雲丸は“黒影”の誘導に、安全のために1km以上の間隔を開けています。
そして、“桃”の発射は“黒影”との距離が500mを切ってからです。
今の荒れた波だけで限界に近い通信ケーブルは、海雲丸通過の余波でパージされると思っていて下さい。
そうなってしまった場合、VRが切れた以降は、知多一尉の誘導と、接近してからのサーマルカメラのみが頼りです。
知多一尉、1kmを切る前に正確な位置は確認可能ですか?」
知多一尉:「可能です。
もうすぐ、アクティブソナーの範囲に入ります。
向こうの出す音で探知するパッシブソナーと比較し、こちらから出した音の反響を拾うアクティブソナーは、距離こそ短いですがより細かい探知が可能です」
響:「今の内に、その後の位置までイメージを固めておけばいいんスね」
山崎:「そのことなんですが、響くんの道は、僕が開きます。
1kmを切る前に、VRの情報を元にAI誘導の“桃”を発射します。
通信が途絶えた場合、知多一尉の誘導で補正をかけます。
“桃”の動力が発する熱は、サーマルカメラで追えるはずです。
一発目の“桃”が“黒影”の位置を確定させます。
響くんは確実に仕留めて下さい」
響:「とどめは任せて欲しいっス。
俺の役割は頼政じゃなく猪早太になりそうっスけど、喉元を確実に刺してやるっスよ」
知多一尉:「なるほど。
射程ギリギリとなる、VRが生きている時に発射する一発目が当たればそれでよし。
外しても、一発目のサーマルカメラが“黒影”を捉えれば、二発目はその軌道の先を狙えばいいということですね」
山崎:「そうです。
それに、資料にもあったと思いますが、一発目は外したとしても、別の役割があります」
知多一尉:「山崎さんの意図、了解しました。
一発目が大きく外せばニ発目は行き先を見失いますし、発射した時点で潜水艇も発見されます。
責任重大ですね。
…そろそろ囮が1km以内に入ります」
議長:『今から海雲丸が君達の上を通過するぞ。
“黒影”との差は現在1.2km。水面のすぐ下だ』
山崎:「了解しました。
“桃”一射目、射出します」
VRの位置情報に、“黒影”と“桃”の速度でAIに補正を入れた“桃”弐型【刃】の一発目が発射される。
直後、海雲丸の起こした波で通信ケーブルの物理負荷の値が100%を超え、通信が遮断された。
事前に予想を聞かされていたため大きな動揺は起こらなかったが、VRの“黒影”がヘッドセットのモニターから消え、響の額に汗が浮かぶ。
知多一尉:「方向、そのまま。
水深、水面すぐ下」
山崎:「了解です」
知多一尉:「二射目、発射」
響:「二射目、発射します」
響の操縦する二発目の“桃”が発射される。
山崎:「サーマルカメラに“黒影”が映りました!」
知多一尉:「着弾まで 5…4…3…2…1──外れ。
黒影、急潜航。
潜水艇、敵に探知された」
外れる直前、至近距離で“桃”のカメラが捉えたのは、古傷だらけの禍津鰐、“黒影”。
その巨体が沈む瞬間、映像が一瞬歪んだ直後に通信が途切れる。




