第14話 臨界
議長:『水中カメラに“黒影”が映った。
パターンは①。由比沖の、封印に近い位置だ。
無人艇はじきに封印付近へ集結する。
海雲丸はPCに共有したルートで囮を開始してくれ。
このあとすぐに“びゅうお”の海門を開けてもらうよう依頼する。
潜水艇は、指定の位置へ移動してくれ』
海雲丸:『了解した。すぐに出航する』
白州:「承知しました。
海門が開き次第、沼津港を出て指定の場所へ向かいます」
議長:『“黒影”はおよそ50分後にそちらへ到達する。
潜水艇は、“黒影”の探知範囲に入る前に待機位置への移動を完了してくれ。
ナビゲーションは山崎君の方で頼む』
山崎:「了解しました。
白州さん、出航してください。
ルートは潜水艇のモニターに共有します」
白州:「発進します」
ディーゼルエンジンよりも静かなモーターを起動し、潜水艇はやや荒れている港内の水上を滑り始める。
政府からの連絡を受けて“びゅうお”の海門が上へ上がり始めると、荒れた波が港へ入り始める。
“びゅうお”を潜水艇が通過すると、再び海門が降りて来る。
これでこの巨大な海門は、“黒影”の脅威が収まるまで山崎達を迎えることはなくなった。
海門が降りていく音を後方に聞きながら、潜水艇は潜航を開始する。
これで3度目になる、艦体が沈み込む感覚とバラストが海水を取り込む音が、山崎を包み込む。
小さな窓から覗く景色は、黒い雲に覆われた荒れた暗い海面から、深い暗闇へと沈んでいく。
日常から切り離されていく感覚が、禍津鰐の領域へ入っていくことを意識させ、山崎の体を強張らせた。
周りを見渡すと、モニターと計器類を確認しながら操作に集中する白州。
知多の遺品のつなぎを着て、左胸の知多の名前が書かれた部分に手を当てて深呼吸している響。
そして、知多一尉と目が合う。
本職だからか、余裕のある優しい笑顔で山崎を落ち着かせる。
だが落ち着いて見ると、緊張の色が隠しきれていない部分が見える。
あの巨大なサメと対峙するのは、ベテランソナーマンをしても緊張させるのだろう。
議長:『“黒影”が囮に反応した。
無人艇も3艇が間に合い、ソナーの統合により、3次元的な情報を作成中だ。
統合が完了し次第共有する』
山崎:「了解しました。よろしくお願いします」
白州:「潜水艇、目的のポイントへ到着しました。
これより着底します」
議長:『承知した。
海雲丸による誘導は順調。
予定と少しズレるが、15分程度でそちらへ誘導する。
4艇の無人艇のソナーを統合し、3次元的な情報を届けるはずだったが、荒れた波の影響で無人艇が4艇とも引き離され、ソナー網から外れた。
海雲丸も、“黒影”の狩りの射程距離に入り、瞬間的な最高速度を出されればこの波の中ではひとたまりもないだろう。
近い距離からの正確な位置の情報を渡すことは出来ない。
出来るだけのサポートはするが、この状況では知多一尉の経験が頼りだ。
よろしく頼む』
知多一尉:「承知しました。
既にパッシブソナーでは海雲丸を範囲内に収めています。
また、山崎さんから聞かせていただいた”黒影“のエコーロケーションの音も確認しました。
あと5分ほどでアクティブソナーが正確な距離と方位を掴めるはずです」
議長:『承知した。
念のため、海雲丸のソナーをGPSと統合した簡易的な位置解析の映像も共有する。
今回の作戦を成功させたあとは、政府側は強行姿勢で黄泉の国外壁の補強工事に着工する。
無茶な作戦を依頼するのもこれが最後だ。
よろしく頼む』
知多一尉:「了解しました」
知多一尉の覗き込んでいる計器を見ると、ドラゴンレーダーのようなレーダー画面に、2つの光が点滅している。
中心に近いのが海雲丸で、遠い方が”黒影“だろう。
そして潜水艇のモニターには、潜水艇視点の仮想の”黒影“が映し出されていた。
山崎がクイーン討伐の際に複数センサーの統合で作成したシステムを、碧が完成形にしてくれたシステムだ。
それを、1つのソナーとGPS信号だけで簡易的に動作させるように、先ほどまで調整してくれていたのだろう。
響:「”桃“弐型のカメラでも、見れるっスね。
精度に問題がありそうな言い方だったっスけど、サーモカメラが捉えるまでの参考にはなりそうっスね」
ヘッドセットを装着した響が、システムの感想を告げる。
だが、山崎の視線は別のモニターに集中していた。
”83%“
通信システムの有線接続にかかっている物理的負荷の数値。
システムのパージ自体は物理的な力で切断される仕組みのため、この値が100%ちょうどでパージされるというわけではないが、これ以上海が荒れれば、外からの情報に頼ったVRシステムは意味を成さなくなってしまう可能性があった。
山崎が口元に手を当て、考え事を始める。




