第12話 不安
議長:「では、一旦休憩としよう。
碧、4人を車まで頼む」
碧:「承知しました」
碧に先導されて会議室を出ると、教授や白井等、数人も会議室を出る。
玄関に着くと白州と知多一尉は、先に車へ行き、助手席を譲り合っていた。
結果ここは、知多一尉が助手席に座るようだ。
碧:「今回は、イレギュラーが多すぎます。
雨は夜には止む予定です。
せめて、時間を遅らせてもらえないか頼んでみます」
山崎:「でも、“黒影”がいつまでも電磁ノイズを怯え続けてくれるかは分からないですし、雨が止んでも濁りはかなりの時間残り続けます。
…二十数kmをたった5隻で塞いでいるだけなので、いつまでも間を抜かれないとは限らないと分かっていたから、会議中は反対しなかったんですよね?」
碧:「…ならせめて、イレギュラー対応の手を増やすために私も乗りま──」
山崎が碧の言葉を制する。
山崎:「悪いな、碧さん。あの船は4人乗りなんだ」
碧:「……スネ夫」
碧の表情が少しだけ柔らかくなる。
碧は気を落ち着けるように、片手で持っていた傘の柄を、祈るような形で両手で握り、一度深い息を吐く。
碧:「──もう、無理は言わない。
…でも、必ず生きて帰って」
山崎:「碧さんが、“隙を生じぬ二段構え”って絶賛してくれたアレがありますし、大丈夫です。
それに僕らには、縮地を使ったクイーンを仕留めた、響くんがいます」
山崎が、白井と談笑する響の方に視線を送ると、碧は笑顔で「山崎くんを信じています」と告げて、近くにいた教授に場所を譲るように横へズレる。
教授:「可愛い彼女のお見送りのあとで水を差してしまうかな」
山崎:「いえ」
山崎は首を横に振る。
教授:「では、私からも一言だけ言わせてくれ。
君は既に、私の助言などなくとも、1人で道を開く力を得た。
だが、今回は今までの比にならない程の逆境だ。
一昨年の繰り返しになるが、自分が冷静ではないかもしれないと感じた時には、基本を思い出すようにしなさい」
山崎:「はい。
──では、行って来ます」
白井と話していた響も乗り込んだことを横目で確認した山崎は、見送りに来てくれていた人達を見渡すように視線を送り、正面を向いてお辞儀をして車へと乗り込んだ。
由比港へ向かう車内で、山崎が質問を投げかける。
山崎:「知多一尉、作戦中はエンジン音の煩い漁船の後ろを、静かな“黒影”が追って来るんですが、そんなノイズの中でも音は拾えるんですか?」
知多一尉:「もちろん、ノイズがないに越したことはありません。
意外に思うかもしれませんが、海というのは“常に音で満ちている”場所なんですよ。
水面に降る雨の音、波の音、乱流、海底反射、船の機械音──その中で、反響の濁りや変化から目標との距離や状態を聞き分けるのがソナーマンです。
たしかに難しい任務ではありますが、任された以上、必ずやり遂げます。ご安心ください」
山崎は、次の質問を探す自分に気付く。
そして教授の言葉を思い出した時、これは普段の知りたがりな自分ではなく、緊張で落ち着かないのが原因なのではないかという考えに至る。
基本を思い返すという言葉で、分かっている禍津鰐の特性や体の仕組みを思い返す。
山崎:「…!
知多一尉、作戦前に聞いて覚えていて欲しい音があります!」
白井:「必ず生きて帰ってください。
もう、趣味の合う友人を送るのはごめんです」
響:「今回の作戦、自分は弓の名手・源頼政なんスよ?
駿河湾を新しい、“鵺が池”にして来るっス」
響が拳を突き出し、親指を立ててニカっと笑う。
白井も薄く笑顔を見せる。
白井:「この雨で昨年のように海の中は濁っていますし、鵺とともに立ち込める黒いモヤのようです。
すでに伝承の舞台が揃っていますね。
令和の鵺退治、よろしくお願いします」




