第11話 政府会議⑩ ──頼政
議長:「だがその前に、佐藤君、安積君はもういいのか?」
佐藤:「落ち着いて来ています。
カウンセラーにも来ていただいたので、お任せして来ました。
また、作戦で映像を使用させていただいた配信者3名も、安積に変わって運営へ通報済みです」
議長:「そうか。ありがとう。
では、潜水艇メンバーも揃ったため、作戦について簡単にまとめる。
まず、今回の作戦“ヨリマサ作戦”は、昨年のクイーン討伐時と同様、“桃”弐型【刃】による殺傷を目的とする。
“黒影”がノイズによる誘導はほぼ効かないと思われることから、こちらもクイーンの時と同様、漁船でエサを垂れ流しながらの誘導になる。
本来は海雲丸を囮とし、防波堤のところに設置されたセンサー類を使用して迎え撃つ。
以上が当初考えられていた作戦の概要だった。
だが、防波堤の辺りは“黒影”にとってトラウマとなっているようだ。
それに加え、駿河湾全域どころか、すでに駿河湾を出ようとすらしている。
そのため、今からおよそ2時間40分後にかけて、電磁ノイズを発生させた海自、海保の5隻によって“黒影”を駿河湾北東部へと誘導する。
そして海雲丸による誘導をするわけだが、“黒影”の最高速度は海雲丸よりも速く、今回はGPSマーカーもない。
範囲は絞り込めるが、ソナーの探知圏内に入ってからでは遅い可能性がある。
そこで、まずは“黒影”を発見する方法を考える。
何か方法はあるか?」
教授:「それならば、“黒影”が行方不明になった時に山崎くんが出しかけていた、範囲を絞り込んでの、無人艇4艇によるローラー作戦がいいのではないのかな?
北東へ追い込んだ状態ならば、余計に捜索をしやすくなっている。
先ほど提案しかけたのはそういうことだろ?」
山崎:「そうです。
無人艇同士の間隔を離してソナーで索敵し、あらかじめ捜索範囲を絞っておくことで効率を最大化しようとしていました。
“黒影”発見後に海雲丸に動いてもらうということでいいのではないでしょうか」
海雲丸:『俺はそれで問題ない。
命をかける気で挑んでいるが、無駄に散らせる気もないからな』
議長:「承知した。索敵と囮に関してはそれでいいだろう。
次に、潜水艇がどうやって“黒影”を捉えるかだ。
昨年のようにセンサー群を使用した、立体的な索敵は不可能だ。
潜水艇は改装を重ねてアクティブとパッシブ、両方のソナーを備え、それを活かすソナーマンも乗り込む。
だが、そのフィードバックを受け取る側は禍津鰐の討伐経験はあれど、そちらの方は素人だ。
知多一尉の掴んだ情報を生かし切れると思うか?」
議長は知多一尉の方に視線を向ける。
知多一尉:「問題ないと考えます。
今回の作戦に私が提供出来る情報は、禍津鰐との距離や方角が主だと考えます。
濁りの強い海中で、方向と距離を伝えて、“桃”弐型の発射のタイミングを伝え、サーモカメラが“黒影”を映し出すまでの誘導をさせていただきます」
言われて気づくと、封印箇所を映したカメラの映像には、川からの濁りが広がって来ていた。
議長:「そうか。
それであれば、ネックだった潜水艇からの索敵が解決しそうだ。
それであれば、あとは響君か。
今回は今までで一番条件が悪い。
サーモカメラが映し出すまで、視覚情報はなく、知多一尉の案内だけだが、いけそうか?」
響:「やります。
“ヨリマサ作戦”、鵺を討ち取った弓の名手、源頼政に自分を重ねてくれているんですよね?
なら、期待に応えなきゃいけないですし、視覚をイメージで補正するのは得意分野です。
何より、今度の弐型はちょっと違うんで、期待してて欲しいっス」
議長:「他の2人はどうだ」
白州:「問題ありません。
山崎くんが作ってくれた、VRで地形を表示する仕組みがあるので、計器と悪い視界頼りだった昨年より楽なぐらいです」
山崎:「僕も問題ありません。
今まで、いろいろなトラブルをイメージして準備はしてきているので。
それに、今回は索敵の手札が増えたんです。
響くんが大丈夫だと言うなら、僕は問題ないです」
議長:「ではまだ早いが、君達は今から出発し、沼津港で待機してくれ。
作戦の詳細を詰めたら、追って共有する。
潜水艇も、すでに陸路から由比港へと出発している」
“ヨリマサ作戦”は響が指摘した通り、平家物語等に描かれる、鵺を討伐した源頼政から来ています。
天皇の住む御所・清涼殿に、毎晩のように黒煙と共に不気味な鳴き声が響き、二条天皇が弓の名手である源頼政に退治を命じます。
頼政が、先祖から受け継いだ弓を手に怪物退治に出向くと、清涼殿を黒煙が包み始め、頼政が弓を射ると悲鳴とともに鵺が落ち、郎党の猪早太が喉を一突きしてとどめをさしたという物語です。




