10話 政府会議⑨──結集
議長:「これで23頭の流出という大規模災害にも、一区切りはついたな。
ただし、ここからが本番と言ってもいいだろう。
体長こそ及ばないが、間違いなく昨年のクイーンを超える脅威だ。
これより、“黒影”が残った時のプランB、“ヨリマサ作戦”の修正を行う。
その前に海自の応援艦船はどれぐらいで駿河湾に到着するか分かるか?」
海自:「多用途支援艇沈没の報を受け、既に相模湾沖で待機中だった護衛艦が向かっています。
残り1時間10分程度で到着予定です」
稲垣:「護衛艦を一隻救助に使っているが、残りの小型と応援の護衛艦は、“黒影”の追い込みに使えるのか?」
海自:「可能です。
救助は護衛艦一隻で充分で、そちらは高出力のノイズで“黒影”を牽制しながら任務に当たっています。
残りの範囲の警戒を哨戒機に担当させれば、どちらも作戦に組み込むことが可能です」
稲垣:「なら、間を強行突破させないよう、2隻には2時間かけてゆっくり土肥のラインまで、“黒影”の柵を押し上げてもらう。
“黒影”は無人艇のノイズを検知した途端、反対方向へ全力で逃げて事故を起こした。
そしてその先でもノイズを喰らい、また北へ逃げ出している。
こんな事言いたくはないが、さっきのお姉ちゃんを見れば、トラウマというものが、どれほど抗い難いものか分かるはずだ。
絶対はないが、“黒影”の脳裏には、強烈なノイズの恐怖が焼き付いているのは確かだろう」
教授:「ということは、およそ3時間後、作戦の舞台が完成するということか」
議長:「より確実に包囲するために、2隻の間を埋める応援を呼ぶことは出来ないか?」
海自:「今から横浜基地から応援に来たとして、駿河湾まで4〜5時間はかかります」
海保:「去年から海保の船にも、電磁ノイズ発生装置は積んでいます。
被害にあった海保の船はゴムボートのタイプの作業船だったのですが、抗議船による、その…活動を受けていたのが直前までの通信のログで分かっています」
報道に乗って来ていない内容だったが、ノイズ発生装置を使用出来なかった理由が腹に落ちた。
妨害されていた工事を担当していた白州は、普段の現場を知っているからか、苦い顔をしている。
海保:「大型巡視船を1隻、中型巡視船を2隻参加させます。
1時間後には自衛隊の船に合流し、“黒影”の包囲に参加出来ます」
海自:「合計5隻。
ノイズ出力の大きな護衛艦と大型巡視船が間に入り込む形で並走すれば、盤石な布陣となります」
議長:「これで舞台を駿河湾北部……興津方面を除外すれば、北東部に絞り込むことが出来たな。
次に囮だが──」
オンラインから声が割り込む。
海雲丸:『囮は俺らがやる。
相手は“黒影”なんだろ?
なら、そこは是が非でも噛ませてもらう』
議長:「だが、最高速度はあちらの方が上なのかもしれないんだぞ?」
海雲丸:『今ぐらいの波なら問題ない。
それに、潜水艇が狙える範囲にいれば、ノイズで俺らが麻痺させても問題ないんだろ?
ノイズ発生装置ってのは、俺の船にも付けてもらっている』
議長:「…分かった。
だが、囮をするのであれば、ノイズを使用していいのは危険が迫った時だけだ。
特に“桃”射出後や潜水艇の1km以内での無暗な使用は禁止する。
肝心の“桃”の動作を乱す可能性が高い。
その状況下では、やむを得ない場合を除いて使用する事を禁止する」
海雲丸:『了解した。
仕留めてもらうのが俺の望みだ。
邪魔はしない』
海自:「ソナーマンが到着したようです。
…が、優秀な男なのですが」
稲垣:「歯切れが悪いな。
性格に難があるのか?」
海自:「…ということでもないのですが──」
その時扉がノックされ、先ほど安積を連れて出て行った佐藤という女性職員が入室し、続いて1人の男が入ってくる。
立ち止まるとブーツの踵を揃えて姿勢を正し、敬礼の姿勢で発声する。
知多一尉:「海上自衛隊所属、知多一尉、召喚を受け、参上しました」
周囲は、海自の担当官の歯切れが悪かった理由を察する。
それと同時に、響を気遣うような周囲の視線を感じた響が一瞬ためらうような表情をしたあと、席を立って知多の前に立つ。
響:「同じ潜水艇に乗る、響です。
よろしくお願いします。
担当は“桃”……魚雷のコントロールっス」
握手を求めるように、知多一尉の前へ手を差し出す。
知多一尉は響の名前を聞いて、わずかに反応を見せ、一瞬で通常に戻る。
入って来るまでに、知多のことを聞いたのだろう。
知多一尉:「ソナーを担当させていただく知多一尉です。
送迎の車の中で資料は読み込んで来ましたので、“桃”弐型【刃】でも、正式名称の“意富加牟豆美命”弐型【刃】のどちらでも大丈夫です。
よろしくお願いします」
知多一尉は響の右手を両手で握り、握手をした。
気づくと、響の後ろには既に白州が立っていた。
山崎は慌てて立ち上がる。
白州:「潜水艇の操縦をさせてもらっている、白州です。
まだ未熟な身ですが、よろしくお願いいたします」
白州が差し出した手を、知多一尉が握る。
知多一尉:「昨年の活躍はニュースと、先ほど読んだ資料で知っています。
こちらこそ、小型の潜水艇もサメの相手も初めてのことですが、よろしくお願いいたします」
山崎:「情報の統合でサポートさせていただいています、山崎です。
よろしくお願いします」
山崎も、知多一尉と握手を交わす。
知多一尉:「今回の作戦の話の前から海に携わる身として、身近に起こりうる脅威に対抗するため、論文を読ませていただいていました。
研究者の方だと思っていたのですが、資料を読んでご活躍を知りました。
アナログな人間ですが、お役に立てるよう全力を尽くします」
議長:「搭乗するもの同士、自己紹介が済んだようだな。
禍津鰐対策で指揮を執っている、内閣府危機管理官の竹鶴だ。
急な招集で作戦までの時間も短いが、よろしく頼む」
知多一尉は再び姿勢を正し、議長に敬礼をする。
そしてそのまま海自の担当官にも敬礼を向ける。
議長:「では、作戦の続きを話そう」




