第6話 政府会議⑤──発動
議長の『他に懸念点や改善点はあるか』という問いに、沈黙が流れる。
参加者は顔を見合わせるが、口を開くものはいなかった。
議長:「では、政府側で今の作戦を推敲する間、皆は一旦休憩してくれ。再開は15時とする。
14:30からの記者会見で臨時の法令が公布されるが、周知の時間に2時間程度は取りたい。
船舶・ヘリ・ドローンの運航者へ規制を行き渡らせ、撤退を完了させるには、最低限この程度が必要だ。
緊急災害時の法令は即時発行が基本だが、周知と認識のために時間を取らなければならん。
だが、今回の作戦は能力に差のある23頭を相手に、極めて狭い範囲に誘導する必要がある。
周知の時間は必要だが、AIの演算によると、誘導開始地点にも大きく制限がかかる。
15時からは作戦変更事項の擦り合わせを考えているが、禍津鰐が誘導開始地点に入り次第、作戦を開始するつもりでいてくれ。
禍津鰐が駿河湾から流出する事態だけは、阻止する必要がある」
15時が近づき、順次、会議室へと入室していく。
PCへも配布されているが、紙の資料も机の上に置かれている。
細部が詰められているが、大きな変更点はなかった。
休憩の間に3つに別れていた禍津鰐は合流し、現在は駿河湾を挟んで反対側の土肥沖にいる。
ログの内容を解析した結果、進路が清水方面である可能性が70%を超えているため、まだ公布から30分経っていないが、作戦開始が言い渡される可能性が高い。
会議室の時計が15:00を指し、会議が再開される。
議長:「既に存じていることだと思うが、現在禍津鰐が清水方面へ出て来る可能性が、秘書と山崎君、二者の演算で共に70%を超えた。
よって、公布から十分な時間は置けていないが、これより囮となる無人艇を清水から出航させる。
自衛隊の輸送機は、浜松基地で既に”桃“参型の積み込みを終え、燃料補給やパイロットの準備も終えている。
離陸すれば17分程度で作戦海域へ入ることが可能なため、囮が禍津鰐の誘引に成功した時点での出発となる」
MAPに禍津鰐の想定進行ルートと、無人艇のルートが描画される。
議長:「無人艇は清水港を出航し、計算通りならこの辺りから無人艇の電磁ノイズを感知する。
電磁ノイズと音と振動を釣り船に似せるよう調整している。
今まで襲って来たような釣り船同様のものと知覚し、追って来るはずだ」
教授:「さすがにあの騒ぎの後に駿河湾内に入って来ている船はないと思うが、ヘリの離脱状況はどうだ?」
議長:「報道関係のヘリに関しては、残り10分弱で最後のヘリが、駿河湾からの撤退を完了する予定だと連絡を受けている。
報道に関しては、具体的な処分に関しても通達し、強く圧力をかけたから心配はいらんだろう。
ただし、個人でチャーターしているヘリに関しては全てに手を回し切れていないため、撤退状況に関して管理できていない。
また、個人のドローンに関してはお手上げだ。
小型であるとはいえ、低空を飛ばれれば禍津鰐の注意をひくかもしれんが、監視も追いつかん」
教授:「ドローン程度の音なら問題ないと思いたいが…。
個々の良心次第か」
山崎は口元に手を置き、今の会話で引っかかった部分を隣にいる教授にも聞き取れないような声で反芻し始める。
教授は目を細め、周りも、期待するような視線を送る。
山崎:「…それなら、逆に利用しませんか?」
議長:「どういうことだ?」
山崎:「こんなタイミングで分かっていて飛ばしているなら、恐らく有名配信サイトでライブ配信をしていると思います。
それならAIに配信を抽出させて、衛星カメラとの組み合わせで精度を上げる、我々の目として利用したらいいのではないでしょうか。
もちろん、作戦に影響しそうな低い高度のものは即警察や海保から通達させ、クイーンの時に提示した高度を守っているものだけを利用する形になりますが」
議長は碧に、回答を求めるように視線を送る。
碧:「可能です。
ズーム率を解析し、推定高度で安全性の高いものだけを統合し、それ以下で飛行するものは即通報します。
もちろん、48時間の範囲内では高度を守っていても違法ですが」
議長が口元を緩める。
議長:「なるほど……抑えきれんのなら、利用するということか。
よし、高度の低いものはすぐに停止させろ。
利用出来るものは泳がせてカメラとして利用し、作戦終了後、公布した法に基づき法の裁きを受けさせろ」
碧:「私は利用出来るドローン映像の統合を開始します。
山崎さんは低高度のドローンの通報をお願いします」
山崎:「了解しました」
山崎はPCを持って碧の作業しているテーブルへ移動する。
海保:「無人艇、防波堤の外へ出ました」




