第4話 政府会議③──分断
山崎:「まず前提として、参型は奪い合うように食べさせた場合、成功率が大きく減少します。
機構を守る仕組みはあるのですが──禍津鰐の咬合力は、恐らくそれを破壊します。
なので、綺麗に口の中へ運ぶ必要があります。
もちろん個別に食べさせたとしても絶対とは言えませんが、中途半端な噛みつきでは歯を立たせずに口内へと押し込まれるよう、形状を設計してもらっています。
そして群れで泳ぐ禍津鰐を分断させる方法ですが、小魚の群れが纏まった行動を取る時の逆を試そうと思います。
水族館で時間毎のイベントにしていることもあるイワシトルネードですが、あれは光など、外部の刺激によって人為的にあの行動が引き起こされています。
イワシの群れは特定の意志のない、刺激を触媒にした流れによって興っていますが、捕食者の群れは刺激ではなく統一された目的を持って作られています。
目的を持った群れならば、目的を見失わせます。
…皆さんはサメの鼻を叩いてサメが逃げていく動画なんか見たことがあるでしょうか?
あれは敏感なロレンチーニ器官が刺激されて、混乱して逃げているんです。
“桃”の形状や周囲の禍津鰐に起こっている状況を探らせない意味も兼ねて、耳を麻痺させる強烈な音の炸裂と、完全にロレンチーニ器官を麻痺させない程度の大出力ノイズを群れに当てます。
そして、エコーロケーションが使えず、ロレンチーニ器官の働きも軽い麻痺を起こしている禍津鰐が散った所で、残った嗅覚を刺激する、魚の血を塗りたくった“桃”の参型を投下します」
政府側の参加者達が、食い入るようにモニターを見る。
山崎:「方法としては、今までと同様にノイズ発生装置をつけた無人艇で誘導し、“桃”参型の有効範囲付近で追いつかせ、相手が捉えたと思った、一番油断する瞬間に音とノイズを発生させます。
その際、“桃”参型【祓】を分散して撒きたいんですが、何かいい方法はありますか?」
山崎は海上自衛隊の担当官の方に視線を送る。
海自:「誘導完了と禍津鰐を麻痺する時間が算出出来れば、囮の船から投下するよりも、自衛隊の輸送機からの投下が良いでしょう。
それならば船から投下するよりも大きく分散することが可能ですし、誘導中は遠くにいるため作戦に支障をきたしません。
今回のような、国家規模の大規模海洋災害事例であれば、”海難救助および災害拡大防止のための特殊装置の投下“という名目で自衛隊の出動が可能であると思われます」
議長:「総理、どうでしょうか」
総理:『承認します。
海上保安庁の船が被害を受けていますので、形式的な手続きとして、のちほど海保からの自衛隊出動要請も提出してください。』
海保:「承知しました」
教授:「それが可能だとして、禍津鰐を一網打尽にするには、確実に囮の船を追わせることが重要だ。
作戦中、駿河湾周辺の船やヘリの往来を規制することは可能かな?」
教授が議長の方へ視線を送る。
議長:「可能だ。
今回の事例は、海保の船が沈没し、80名以上の被害が見込まれる極めて重大な海洋災害だ。
そのため、通常の手続きでは間に合わない。
よって、4つの法を重ねて即時規制を行う。
まず、災害対策基本法で“災害危険区域”を設定する。
これだけでも、船やヘリだけでなく、ドローンの侵入も規制出来、罰則を課すことも可能だ。
次に海上保安庁法の“海上交通の規制“で、海難事故の拡大防止のために海域を規制する。
今回は海保の船が沈んでいるため、自衛隊に出動要請を出している。
自衛隊が出動し、海域の封鎖を実施することが出来る。
3つ目に自衛隊法の“災害派遣中の区域規制”だ。
“災害派遣に伴う海域安全確保”を名目に、自衛隊の指示に従わない船舶は、今挙げた3つの法の複合違反として処罰する。
最後に、航空法による”飛行禁止区域の設定“だ。
”災害対策のための臨時飛行禁止区域“という名目で、飛行機・ヘリ・ドローンの侵入を最初の法と併せて処罰が可能だ。
期間は48時間とする」
総理:『すぐにまとめさせます。
2時間後に記者会見を開き、そこで公布しましょう』
議長:「お願いします」
稲垣が半ばまで手を挙げる。
議長:「稲垣君」
稲垣:「素晴らしい作戦だ。
バックアップの方も抜かりはない。
…だが、統率された禍津鰐の群れは、今は3つある。
群れ毎に列を作って並んでもらうか?
それに、一昨年黄泉の国にリリースした“黒影”がいる可能性が高い。
クイーンはノイズ発生装置を学習した。
なら、“黒影”もそうである可能性を考えるべきなんじゃないのか?」




