第3話 政府会議②──革新
山崎がモニターを左右で分割した表示にし、“桃”壱型【封】の設計図を左側に表示し、右半分を由比沖の大穴の映像にする。
山崎:「“桃”壱型【封】エアバッグを小型化して、複数同時利用を前提とした自動制御のドローン化しました。
今までは角度は射出する際の潜水艇頼りで、展開のタイミングだけを遠隔操作をしていました。
これも実は確実性重視な現場主義の知多さんは有線で操作していたので距離の制限があったんですが──今度の“桃”は制御がいりません。
ドローンの編隊飛行のプログラムをベースに、AIが相互通信をしながら動的に判断してエアバッグを展開します。
封印だけならば、人間は陸上から、封印箇所の指示だけを出せば良くなります」
大穴の映像に、複数の桃が展開し、穴を塞ぐイメージ映像が重なる。
次に大穴付近の海底の3D画像が表示され、そこに赤い格子状の線が引かれ、各交点が赤く光る。
山崎「このように、由比沖の岩盤が弱っている周辺に、万が一のためにセンサー網を設置してあります。
工事の妨害があり、今回開いた大穴の半径2km弱しか敷設出来ていませんが、既に稼働していて、この周辺で“桃”に搭載されたマーカーは、高精度で3次元的に位置を確認出来ます。
封印が緩んでいるという情報は以前から共有されていますが、今回はそれが原因で大規模の崩落が起きたと考えていて、予想されていた範囲と今回の崩落範囲は96%合致しています。
昨年の8月に採取された黄泉の国の海水から発見されたバクテリアによって、封印や岩盤の補強に使用されている樹脂が分解されることが、今年の2月に偶然発見されました。
6月には対策済みの樹脂が完成していたのですが、港での積み込み作業が抗議活動家達に妨害されたことで、作業に大幅な遅れが出ていました。
逮捕者が出たことで少し落ち着き、封印しているバルーンへの塗布がやっと終了した所でした。
今回の“桃”壱型は、既に対策済みの樹脂に置き換わっているので、封印には問題ありません」
参加者が関心して頷く中、地質学の白井が手を挙げる。
知多の死後も、白州が補強工事で使用する潜水艇へセンサーの取り付けをして貰い、データの収集を続けていた。
議長:「白井君」
白井:「バルーンへ対策済み樹脂を塗布する工事と並行して、超音波による検査で、樹脂分解の影響を調べていました。
その際、7月ぐらいから妙な波形を拾うようになり、それが少しずつ大きくなっています」
碧が、モニターの表示を白井のPCに切り替える。
白井:「こちらはその波形を研究施設で解析してもらったものです。
樹脂で固められたバルーンや岩盤を通しているのでかなり変性していますが、禍津鰐のエコーロケーションではないかとの見解でした」
議長:「まだそれが何を意味するのか分かっていないが、これは1つの事実だ。
音波が岩盤と共鳴するなど、崩落の原因の1つになっている可能性はあるとされているが、今は再封印についての話に戻そう。
山崎君の説明してくれた通り最新型の“桃”は、人が海に入ることなく、広い範囲を封印することを可能にしている。
岩盤の補強に関しては禍津鰐を黄泉の国へ送り返し、封印が完了してからすればいい。
…幸いにも弱っていた岩盤のほとんどは、今回の崩落で無くなっている。
では次に、禍津鰐への対策についての話に移ろう。
これに関しては、昨年は間に合わなかったが、“桃”参型【祓】が完成している」
モニターに参型の仕様書が表示される。
議長:「“桃”参型【祓】は、禍津鰐を捕獲することを目的としている。
由比沖に敷設されたセンサー網の近くで食べさせることで、人の手を介さず自動で黄泉の国へ送り届けることが出来る。
調整がうまくいっていなかったが、そちらは完了している。
弱点は、禍津鰐の全長にプラスしてバルーン分の穴をあける必要があったのだが、今回は既にそれはクリアしている」
議長は指し棒を伸ばし、モニターの図を指す。
議長:「禍津鰐をターゲットにするため、ノイズを発生させる。
それを禍津鰐が食べ、口内に入ったことを認識すると、返しのついたスパイクを伸ばして禍津鰐の口内へ固定しつつ、睡眠薬を注入する。
弐型と違い即効性は求めていないため、数分で禍津鰐を睡眠へと誘う。
睡眠薬の効果が出て、一定以上の運動能力の低下をAIが検知すると、バルーンが口外で展開される。
展開されたバルーンは内部の空気を4方向から射出しつつ、位置と深度を調整し、海流とエアの射出でAIが禍津鰐を黄泉の国へと送る。
黄泉の国へ到着後、スパイクの先端についた返しを収納後、スパイクも収納され、バルーンに残ったエアで“桃”が浮上して禍津鰐から外れるという仕組みだ。
スパイクが外れたあとも、マーカーは残り続け、山崎君が構想している研究に活用されると共に、万が一黄泉の国へ入らなかった場合も、水面近くへ浮上した時とセンサー網の範囲に入った際に位置を知らせる首輪となる。
“桃”で黄泉の国へ入れるには、この範囲で行う必要がある」
大穴から4km付近の狭い範囲が赤く囲われ、そこを議長が指し棒で叩く。
議長:「ここで食べさせる方法に関しては、禍津鰐行動学の山崎君から昨年から提案が出ている。
山崎君、説明を頼む」




