第2話 政府会議①──惨禍
10:52、昨年夏に取り付けが完了した封印箇所付近を映す水中カメラが、壁の大規模崩落を映し出していた。
また、そこから23匹の禍津鰐が外の海へ出て来るのを確認。
AIが見つけて人間に動画を送信し、人間の目で確定させ、すぐに駿河湾に面する地域にあるスマホの警戒アラートが鳴り、テレビや市区町村の放送でも、海から離れるよう警告が出された。
死亡者・行方不明者の数不明。
ニュースやSNSでは、陸から撮影された、マリンスポーツ中のジェットスキーが禍津鰐に襲われる映像が繰り返し流されていた。
また、ヘリによる空撮で、禍津鰐が群れを成して泳ぐ様が映し出される。
そして政府の発表した、23頭の禍津鰐の流出が速報で流れていた。
ここ最近、駿河湾内の魚介類の巨大化で釣り船が多く出ていることが挙げられ、被害の拡大を危惧するコメントが紹介される。
また、巨大化の例として、今年の桜エビ漁シーズンに世間を騒がせた、甘エビほどのサイズの桜エビの映像が使われた。
短時間の内に被害が確認されている範囲が広いことから、1つの群れではなく、複数に分かれていると専門家がコメントしていた。
禍津鰐の論文を発表したことで名前の出た山崎の元へも、テレビ関係者からの連絡でスマホが鳴り止まなかった。
テレビでは、前回の被害を受けて1年以上経った中で、黄泉の国の壁の補修工事の遅れを非難していた。
抗議活動での逮捕事例が未だに1件であるという事実にクローズアップし、大きな被害を出した昨年の騒動に対し、その対策を妨害する行動を取り締まらずに遅延させた政府の怠慢が起こした被害だとしていた。
SNSでは意見が分かれていたが、エサ不足の禍津鰐を閉じ込めることを反対していた抗議団体や、それを擁護していた者達を非難する声が圧倒的に大きかった。
黄泉の国の壁崩落の連絡から10分程度で水族館へと、対策本部の手配した民間のヘリが到着した。
そして、アラートから1時間経たずに、山崎と稲垣は現地対策本部のある清水庁舎へと到着した。
春に出産後、愛知県内の実家へ里帰り中の蘭は今回不参加となった。
禍津鰐対策の総務として働く安積に先導されていつもの会議室に着くと、会議の準備は既に終わり、席も既に8割以上が埋まっていた。
山崎と稲垣も、既に到着していた教授の横に案内される。
今回は、会議の中心となるコの字型に並べられた長机以外に、安積達常勤の対策班の席が用意されていた。
山崎達が到着して、予定されていたメンバーが揃ったらしく、会議が始まる。
議長:「ではこれより、会議を始めさせてもらう。
今回も儀礼的なものは省略させてもらうが、今回は情報の共有だけでなく、首相官邸の危機管理センターとオンラインで繋がり、総理も視聴している。
これは直接議論に参加するためではなく、禍津鰐23匹という、未曾有の災害へ迅速に対処出来るよう、承認プロセス短縮のためだ。
基本的に今までと同じように議論してくれればいい。
では、まずは現在判明している範囲での被害状況を共有する。
禍津鰐関連の工事に対する抗議船が2隻。釣り船が8隻。個人の船が2隻連絡を絶っている。
そして、抗議船への警告に出ていた海上保安庁の船が1隻、アラートを受けて周囲の船に対する帰港を促している最中に通信が途絶えた。
禍津鰐のサイズから、海水浴客がいるような浅瀬に被害は出ていないが、マリンスポーツをしていた人間が禍津鰐に襲われる様が、陸から観測されている。
現状で80名以上の被害が見込まれている。
次に禍津鰐達の動向について説明する」
参加者の紹介が表示されていたモニターが、MAPに切替わる。
議長:「衛星で撮影された映像から駿河湾の水面の乱れをAIが解析したところ、3つのグループに分かれて集団で狩りをしていることが分かった。
それぞれの構成頭数までは分からんが、単体で行動するものは確認されていない。
また、現状では一番遠くへ出ている群れでも土肥の辺りまでで、駿河湾を出ようとする動きは今のところ見られていない」
議長が碧へ視線を送るとモニターの画面が2分割になり、左半分に一昨年の亀裂の映像が映され、右半分に現状の大穴のリアルタイム映像が表示された。
議長:「角度が違って分かりづらいが、この通り今回の崩落の大きさは、一昨年の亀裂の5倍以上となっている。
これの封印について、山崎君、説明を頼む」
山崎が頷くのを確認し、碧がPCを操作して、山崎のPCの画面をモニターに繋ぐ。
大穴のリアルタイムの映像に、“桃”の封印バルーンを展開したイメージ画像が重ねられている。
山崎:「従来の“桃”壱型【封】のサイズを映像に重ねていますが、ご覧の通り全くサイズが足りていません。
また、知多さんが難なくこなしてくれたため簡単に見えていましたが、ハニカム構造に仕切られた、平面的に展開するバルーンを角度や距離を合わせて展開するのは、実はとても難しいんです。
今回のように、複数を組み合わせて展開しなくてはならない規模では、間違いなく不可能です。
なので、大規模な崩落に備えて次のような仕組みを提案していて、先月それが完成しました」




