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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト
第2.5章 山崎の夏休み

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山崎の夏休み ep-3 ──素顔

水族館での夏休みバイト最終日を終え、迎えに来た稲垣の車で帰宅した。

玄関を開けると、教授と蘭に出迎えられた。


蘭:「今年は私が一緒に飲めない代わりに、ゲストを呼んだわ」


少し大きくなってきたお腹を右手でさすりながら、蘭が少し横へ避けると、背後から私服を着ている碧が登場する。

スーツ以外の碧を見るのは、オンラインで講義を受けている時も含めて、初めてかもしれない。


碧:「お招きいただき、ありがとうございます。

山崎くんの誕生日に皆さんが集まって飲むと伺(うかが)い、父からこれを持たされています」


持っていた縦長の箱を肩の辺りまで持ち上げる。


山崎18年


稲垣:「議長、かなり奮発したな」


碧:「皆さんには、それだけ助けられたということだとお受け取りください。

それに、山崎くんの成長はめざましいものでしたし、このウイスキーの選択でまだ上を残したのは、父なりのメッセージです」


稲垣:「山崎を成長させれば、25年が飲めるかもしれないってことだな」


蘭:「…さすがに40万超えのウイスキーを贈ってはくれないでしょ」


碧:「それは、私達の頑張りと父の度量に期待──ということでいいかと思います。

…まぁ、今回以上の功績をあげる機会があっては困りますが」


教授:「そうだな。

18年でも充分過ぎるほど高価なお酒だ。

黒影の撃退やクイーンの討伐という功績も込みでの贈り物だろうな。

あとは私達に残された仕事は、亀裂に引っかかっていたオスとクイーンの死体からの研究。それに白井くん富士くん達の、封印の強化ぐらいでないと困る。

25年を贈られる機会は、無いことを願いたいな」




山崎がシャワーを浴びてリビングへ行くと、すでに全員が着席していて、料理とお酒が用意されている。

メニューを見ると、山崎が1人で家を借りていた間の、残りの食材を使うように意識して組まれていた。


蘭が黙って碧の方へ視線を送る。

碧は意図を理解し、咳払いをする。


碧:「山崎くん、お誕生日おめでとうございます。

水族館での研究についても伺いたいところですが、無粋なことは後にしましょう。

乾杯」


グラスを合わせて、食事を始める。


山崎が唐揚げを箸で取ると、碧の視線が気になった。

クールを装っているが、食事の手が止まって少しそわそわして見える。

恐らく、お手伝いをしたのだろう。


山崎:「この唐揚げ、柔らかくて美味しいです」


クールな表情のままだが、少しドヤ顔をしているようにも見える。

蘭の口元が、笑いを堪えているようだった。




食事をしながら、山崎は水族館バイトの意図や研究について報告をした。


碧:「さすが蘭さんの教え子です。

山崎くんも、立派に研究を終えて来ましたね。

師匠として、鼻が高いです」


お酒が入ってから、碧の仮面が剥がれて来ていた。

蘭推しなのもオタクなのも、隠しもしなくなって来ていた。

この感じだと、おそらく去年の誕生日にメールを送って来た時も、飲んでいる所に蘭からの連絡がいったのだろう。


教授と稲垣は今日初めて気付いたようだ。

普通を装っていても、わずかに戸惑いが見える。

そう考えると、改めて蘭の洞察力に驚かされる。

お酒を飲んでいない、仕事モードの碧と数度オンライン会議で話しただけで、素の碧の可能性に気づいていたと考えると恐ろしい。

稲垣も、顔色を変えない蘭の方を見て何かを悟り、『今さら?』という顔をされている。


用意された夕食が少なくなって来たのを見た碧が立ち上がる。


碧:「おつまみが少なくなって来ましたね。

作って来ます」


大丈夫なのかと思ったことが顔に出てしまう。


碧:「山崎くん。なんですかその顔は。

大丈夫です。

トリコ・とんスキ・ダンジョン飯……その他色々と履修済みです」


全部モンスターを料理している…。

“クイーンの唐揚げ”とか出て来かねない。


山崎:「そこはAIに聞くとかでいいんじゃないでしょうか」


碧:「その手もありましたね。

さすが山崎。…さす崎です」


まだ2杯目だが、既に自分の専門分野を忘れている碧は、この程度でもケラケラ笑っていた。


キッチンへは、少し顔を引き攣らせた蘭がついて行った。



10分程度経った頃、千切ったレタスにドレッシング・粉チーズ・黒胡椒をかけただけのシーザーサラダを、ドヤ顔の碧が持って出て来た。

後をついて歩く妊婦の疲れた顔を見て、申し訳ない気分になった。

今回の話に出て来る山崎18年ですが、天使の強欲ぶりに驚いています。


ウイスキーの樽熟成には、天使の分け前と呼ばれる揮発が付きものなんですが、自宅の山崎18年は、瓶詰めされているのに天使が分け前を徴収していきます。


友人と何かをお祝いする時にでも開けようと奮発したボトルですが、7万のお酒に見合うお祝い事がないまま、気づけば残り半分を切っています。

天使さん、ちょっと飲み過ぎじゃないですか?

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