第23話 決戦
山崎:「現在の音響センサーの合致率82%…。
やはり、濁りも影響しているようです。
至近距離の潜水艇位置は合致率99%ですし、“クイーン”に関しても、距離が近くなるにつれて精度は上がって来ています。
1000メートルを切る頃には、AIによる補正が追いつくと予想しています」
海自:『承知した。
今からソナーを起動すれば、作戦にとってノイズになりかねない。
80%の誤差であれば囮の安全に支障は出ない。
“桃”射出の為の精度確保に注力してくれ』
山崎:「了解しました。
500メートルまでの間に補正の精度を上げます」
海自:『承知した。
およそ1分後、潜水艇直上を海雲丸が通過する。
その時点で“クイーン”が1000メートル以内に入る。
そこを目安としてくれ』
山崎:「了解しました」
海自:「海雲丸が潜水艇直上を通過する」
山崎:「潜水艇内、振動を確認しました。」
MAPには各センサーから取得した、“クイーン”を示す赤い点が3つ、少しずつ重なるように表示されている。
“クイーン”と潜水艇の距離を示す数字は、ハンチングしながら、徐々に小さくなる。
合致率87%
距離800メートルを切ったところで、響はPCのモニターを見るのをやめ、ヘッドセットを装着する。
700メートル
600メートル
500メートル。
響:「“桃”弐型【刃】発射します!」
白州:「“桃”弐型【刃】、自動追尾も発射済み。
潜水艇、モーター起動します」
MAPに表示された合致率が96%に跳ね上がる。
赤い点がほぼ1つの点に収束すると同時に、潜水艇側に46メートル瞬間移動する。
山崎:「“クイーン”、実体は今までの情報の約50メートル手前です!」
誤差は最悪の形で現れる。
およそ19秒で接触するはずが、誤差の収束と同時に約2秒分、手前にコマ送りのように跳んで現れた。
響:「大丈夫です。
もうサーマルカメラで実物も見えてます」
複数のソナー情報がAI PCに流れ込み、“クイーン”に加えて“桃”の補正も始めたことで、市販品を遥かに上回る100TOPSのNPUの使用率が跳ね上がる。
eGPUのファンが悲鳴のような音を立てて熱を逃がし、響のヘッドセットの中では山崎の書いた演算コードが、濁った海の中に『赤いクイーンの虚像』を描き出し、そこにサーマルカメラの映し出す“クイーン”の実体が重なっていく。
知多の作成していた地形データが、ARのワイヤーフレームとして響に道を示す。
処理によるラグは0.2秒──。響のイメージ力が、その僅かなズレすらも本能で補正する。
モニター上から、自動追尾の“桃”の信号が途中で消える。
サーマルカメラの標的と通常カメラの映像を統合して動作する、AIによる追尾。
濁りで通常カメラが機能しないことで、岩盤を認識出来ずに衝突。
1基の桃の消失で、山崎が祈るようにモニターを覗き込む。
響:「着弾しました」
MAP上の“クイーン”と“桃”の点が交わる。
静だったイヤフォンに、会議室で湧き上がった歓声が響く。
ヘッドセットを外した響から笑顔がこぼれるが、冷や汗を垂らしながら操縦を続ける白州と、真剣な面持ちでモニターを覗き続ける山崎を見て顔を引き締める。
通常兵器と違い、即効性のない“桃”を受けた“クイーン”は、それを放った潜水艇に標的を変えて迫っていた。




