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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト
第2章 深層の顕現

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第17話 解析会議⑤ ──誘引

稲垣:「待ち伏せをするなら、“クイーン”が必ず帰って来る亀裂付近で帰りを待つか、センサー類が取り付けられている三保真崎の防波堤で待ち構えるかだな。

三保真崎は防波堤で外の感知を切りやすいから、GPS信号さえ確認出来ていれば比較的たやすい。

亀裂に関しては、時間のかかるドリフト潜航だと、最寄りの由比港からでも、8キロ離れたとこで麻痺させた“クイーン”に追いつかれている。

離れている隙に最速で行くにしても、“クイーン”が相当遠くにお出掛けしている必要があるな」


山崎:「では、本命は三保真崎ですね。

もちろん、食い溜めが終わってしまえば、産卵場所に出向く必要があるとは思いますが。

三保真崎は稲垣さんが言うように、防波堤に隠れつつ、“クイーン”に気づかれないタイミングで外側に移動すれば、潜伏は問題なく実行できると思います。

ただ、誘き出す方法に電磁ノイズは適さない可能性があります。

“クイーン”は既に電磁ノイズ発生装置を一度避ける行動を見せています。

その上でまた麻痺をさせています。

例え誘き寄せる事に成功したとしても、警戒を解くことはないでしょう。

とはいえ、食い溜め中でもエサの臭いだけで10キロ以上誘導することは難しいと思います。

何かいい方法はありますか?」


稲垣:「そうだな。

ヘリなんかでエサを転々と振り撒いて近寄らせるって手もなくはないが、さっき教授が収束するみたいに言っていたように、優れた探知能力と学習能力を持ってすれば、最適な狩場を見つけるはずだ。

不審なヘリから落とした物で釣るなら、それ以上に魅惑的でないと難しい可能性もあるな」


響が様子を伺いながら手を挙げる。


響:「…ヘリの音とか、水面を揺らす風圧とかがダメなら、ドローンはどうですか?

勤めている会社はドローンを使った外装点検なんかがメインなんですが、先のことを見据えて、物を運べるAIドローンなんかも他企業と開発中です。

住宅街なんかをターゲットにするために、静粛性には拘っているんですが…」


教授と稲垣が視線を合わせる。


教授:「そのドローンの積載重量と航続可能距離。それと何機ぐらい用意出来るか分かるかい?」


響:「2キロぐらいの物を、数キロ運べる程度で、今までの試作機を合わせて5機です」


教授:「…静音性を優先した機体なら、その程度の重量と航続距離になるか。

血の臭いの強いマグロやカツオならと思ったが、数キロメートルに2キログラムでは、誘引の期待値を高く見積もることは出来ないか」


山崎が何かを思いついたのか、キーボードで何かを入力し始める。


山崎:「…臭いで誘って来るのは、ありかもしれません。

“クイーン”は少なくともフェリーで成功体験をしているはずです。

そして、釣り船の8人も恐らく“クイーン”に…。

であれば、漁船のような船はエサを載せていると認識している可能性があります。

その漁船が小魚かマグロやカツオなどから、血の臭いが出るように加工したものを垂れ流しながら逃げれば、追わせることが出来ないでしょうか?

今検索したところ、漁船は高速巡行ならば14〜16ノットぐらい出るようですし、最高速度は18ノット程度出るようです。

15ノットで遊泳する“クイーン”に漁船を追わせることが出来れば、より“桃”発射時の選択肢を絞ることが出来そうではないですか?」


教授:「可能性は…あるな。

禍津鰐が公表された今ならば、大学関係者に頼ることも出来る。

海洋の研究をしている教授や准教授には、清水港や由比港を拠点とする漁師にパイプを持つものもいるはずだ。

“クイーン”が討伐されるまで船を出すことも出来ないのもあるが、昨年の黒影に仲間を沈められている由比の漁師の中には、協力してくれる船もいるかもしれないな」


稲垣:「協力してくれる船さえ用意出来れば、“クイーン”を引っ張ってくるのはいけそうだな。

だが、豊富な漁場である駿河湾と禍津鰐の組み合わせは、想定より早く食い溜めを終わらせる可能性がある。

出産場所に突撃する案も考えておく必要はある。

もちろん、出産が始まって動けない“クイーン”なんて期待するんじゃなく、動けるやつを想定した作戦だな」


山崎がモニターの画面を海流のシミュレーターに切り替える。


山崎:「さっきドリフト潜航のシミュレーターに条件を入れてみたんですが、現場の“クイーン”のGPS信号から感知圏外になりそうな御前崎からドリフト潜航で静かに近づく方法を検討してみました。

駿河湾の時計回りの海流に乗っていった場合、亀裂まで40〜54時間程度かかる計算です。

政府が用意出来る潜水艇は、通常ミッションは8時間程度を想定されていますが、ライフサポートの理論限界は129時間と設定されているため、作戦は可能です。

…ですが、食い溜めを終えて出産準備を始めた“クイーン”は海底付近にいるでしょうし、目が見えないため、エコーロケーションの頻度が上がる可能性があります。

その状態では駆動を使用しないドリフト潜航でも発見される可能性が高いでしょう。

ステルスではなく、複数の無人艇のソナーの情報を僕のPCで統合して、“桃”弐型の性能頼みで無理矢理押し切るか、遠隔の無人艇から“桃”を発射するのが現実的でしょうか」


稲垣:「危険性は跳ね上がるが、さっきの“桃”と“クイーン”の性能差の話を聞けば、まるっきり無茶な話ではなさそうだな。

今日はここら辺にして、議事録を政府に共有しておいてくれ。

教授も、協力の要請なんかで忙しいだろうからな」


稲垣が教授の方に視線を送ると、教授は黙って頷く。

こうして、突発的に始まった会議が終了した。

ここでは教授は、普通にレーザーポインターを取り出せていますし、右手で指し示しています。

痛めているのは本当ですが、12話での痛む素振りは演技ですし、いつもと立ち位置を変えたのは、山崎だけが違和感を持つポイントです。14話では演技が功を制し、思惑通りになっています。

痛む演技も稲垣からは、「さっきは普通に持ってただろ」って思われています。

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