第16話 解析会議④ ──試算
教授:「今までは作戦に合わせて、行方不明者捜索のためのヘリすらも駿河湾内への侵入時間を調整して来たが、今回はそうはいかない。
数字になりそうなものに飛びつくのはテレビもSNSも同じだ。
ヘリやドローンなど、作戦のノイズになるものが多くなることが懸念される。
禍津鰐殺処分の反対運動などもあるかもしれないが、一番の懸念は駿河湾への進入だろう」
稲垣:「黒影はジャンプこそして来なかったが、空中のヘリにも過敏な反応を見せていた。
ドローンぐらいなら分からないが、ヘリなんか作戦中に飛ばれたら、遠くへ行ったはずの“クイーン”の大返しもあり得るな。
それに、警戒を弛めるために護衛をつけない作戦をするのに、刺激を与えると不測の事態が起こりかねない。
どう転んでもマイナスでしかないな」
山崎が口元に手を当てて考え込む。
教授はそれを見て、面白そうな発言を期待して目を細める。
全員が見守る中、考えがまとまった山崎が口を開く。
山崎:「…ヘリ、意外とマイナスだけではないかもしれません。
ヘリの位置を全てMAPに反映してすぐに連絡可能にするのと、最低高度だけ守らせることが出来れば、GPS信号を拾う間隔を狭めるのに役立つかもしれません」
教授:「…そうか。ヘリにつられるのであれば、水面へ浮上する。
ジャンプで落とされないように最低高度さえ守らせれば、行動ログの精度が上がるな」
山崎:「完全な潜伏からの発射であれば、先読みの必要もいらないと思っていたんですが、ヘリ等のノイズに左右される可能性があると行動予測が困難になりますが…」
稲垣:「行動予測だが、禍津鰐の取る行動、1つは選択肢から外せるかもしれない。
去年から考えていたんだが、ジャンプを計算に入れる必要はないかもしれん。
知多と白井さんの調査で、黄泉の国に水面がないのはほぼ確定しているから、ジャンプの概念がないってのもあるんだが、そもそもホホジロザメのジャンプに必要な要素も、この場合は満たさない。
まず、ホホジロザメのジャンプは、水面付近を泳ぐ獲物を狙った行動だ。
空中の獲物相手だと視覚以外の知覚は距離感を測れず、視覚情報でも、水面より上なら光の屈折が起きる。
さらに、禍津鰐は目が見えない。
水面を乱す何かがいるのは分かっても、それがどこにいるかは分からないはずだ。
…もちろんこれは仮説で、最低高度は設定するべきだが、行動予測をする上でジャンプの可能性は低く見積もっていい」
山崎:「では、さらに不確定要素を排除するために、こちらの行動で“クイーン”の選択肢を狭めましょう。
元々、“桃”弐型の発射で潜水艇の位置もバレる前提でしたが、どうせバレるなら発射と同時に潜水艇のエンジンをかけて動き出しましょう。
そうすれば、自分に向かって来る“桃”と、水中の潜水艇の優先度が高くなるはずです。
事前にヘリやドローンが、水中の自分にとって無害だという経験を繰り返しているほど、緊急時に選択肢に上がらなくなるはずです。
そんな感じで、先読みの精度は上がりそうですか?」
響:「大丈夫です。
それだけ絞ってもらえればあとはイメージトレーニングで、本番までに100%に近づけます」
山崎:「お願いします。
では、具体的な数字を見せたいんですが──」
山崎がモニターに表示される画面を切り替え、計算フォーマットを表示する。
山崎:「“クイーン”を体長:31メートル、体重:400トンと仮定します。
“桃”を胸鰭に撃ち込んだ場合、
10〜20秒で反応の鈍化。
30〜40秒で体幹の制御が乱れ、潜水艇を狙っての正確な攻撃が不可能。
1〜2分でほぼ無効化し、生命活動の停止を待つだけになると推測されます。
そして“桃”の着弾にかかる時間ですが、最大射程の1000メートル先の標的までおよそ55秒。
“クイーン”の追尾を考えれば半分の500メートルで発射し、発射に気づいた“クイーン”が最大速度の15ノットで近寄って来たとして、着弾するまでの時間が19.4秒。
発射からクイーンが500メートルを詰めるまでが64.9秒。
着弾から潜水艇に“クイーン”が到達するまで45.5秒なので、発射とともに動き出している潜水艇ならば、理論上は回避可能な範囲です。
さらに、今回は囮ドローンの必要がないため“桃”は2発搭載可能で、1発を響くん。もう1発はAI制御で発射すれば、確率も上がると思います」
教授:「悪くない数字だな。
では、“クイーン”へどう接近するかを考えよう。
食い溜め期間と、それが終わった後。2パターンで考えてみようか」




