第15話 解析会議③ ──収束
合わせた拳を離し、山崎は席に戻り、響も着席する。
山崎:「それで僕が考えた案なんですが、“クイーン”が感知境界の外にいる間に潜伏します。
知多さんの潜水艇が見つかったのは、禍津鰐が使用していると思われるエコーロケーションによる発見の可能性が高いと考えています。
麻痺させて時間を稼いでから誘導する方法では、ロレンチーニ器官が麻痺して、耳に頼るエコーロケーションを多用せざるを得ない状況で無人艇を追わせていたんだと思います。
高エネルギーかつ発声器官に負担をかけるエコーロケーションは、イルカの例を見ても、普段なら常に使っているというものではないと思います。
常に使っているのでなければ、使われても気付かせない状況にすればいいと思います」
教授がハッとした顔をする。
教授:「そうか。黒影のエコーロケーションでも、潜水艇のことはハッキリとは見つかっていないという話だったな」
山崎:「そうです。ロレンチーニ器官が万全でなかったからか、黒影はエコーロケーションを使っていました。
そして、海底で止まっている潜水艇の事をエコーロケーションで探られましたが、響くんがプロポを落とすまで、確信はされていませんでした。
最初から海底にいることが出来れば、認識しにくいはずです」
稲垣:「気付かれる前に岩に紛れていれば、エコーロケーションで探られても見つからないってことだな。
“クイーン”のいる場所は……そうか…食い溜めか。
知多がセットしたGPSは“クイーン”が浮上した時にしか追えないが、そのログで行動圏や傾向を探るってことか。
食い溜めが終わるまでなら、魚群を求めて水面近くまで来る事も多いはずだ。それならGPS信号のログで行動圏を把握出来るし、信号を捉えられなくなれば食い溜めが終わって本格的な出産準備だってことになるな」
山崎:「そうです。
そして食い溜めが終わって移動しなくなってしまうと、不在を利用して潜伏をすることも誘き寄せることも出来ませんし、GPSでの捕捉も出来ません。
そうなれば“クイーン”の所に突撃するしかなくなってしまうので、より危険度の高い作戦か、遠隔操作になってしまいますね」
教授:「普通に考えたら出産が近いのなら、気付かれずに潜伏出来るほど離れてくれる事はないと思うが、GPS信号で移動が確認されているのかい?」
山崎は画面を切り替え、赤い点と時間がしるされたMAPを表示する。
山崎:「見て下さい。
色々な場所で頻繁に水面近くまで浮上しています。
午前中はフェリー事故で食べ残しをしていますし、作戦前も衛星映像のAI解析にずっと映っていなかった程度には水面近くへの浮上が少なかった“クイーン”ですが、スイッチが入ったように、捕食と思われる浮上を繰り返しています。
出産準備の食い溜めに入ったか、水面に近い方がエサが多いという外の海の仕組みに気付いたからかは定かではないですが、今がチャンスだということは明らかです」
稲垣:「そうだな。さっきと繰り返しになるが、やはりここ数日の動きが、作戦の肝になることは間違いなさそうだ。
そして恐らくだが、お前の言う、スイッチが入ったという表現は正しい」
教授がMAPを見ながら顎の辺りに手を当てて考えている。
教授:「…まだなんとも言えないが、不規則に思えるこの点も、時間が経って“クイーン”の学習が進んでいけば収束していきそうな兆候を見せているな。
この点は、時間経過と共に色を変えて行くようには出来るかい?」
山崎:「今晩中にやっておきます」
教授:「私のほうでも、伝手をたどって、漁師にこの時期の魚群の分布と時間帯を聞いてみるとしよう。
ただし、この作戦にも穴はある。
禍津鰐は地形を記憶している可能性がある。
黒影は、完全に静止している潜水艇を見つけ、確認に来ている。
音響通信に気づかれたのか、コアエリアの地形に違和感を感じたのか分かっていない。
少なくとも、出産場所付近は全てを把握される前提でいるべきだろう。
そして、禍津鰐の事が公表されたこれからの作戦は、今までとは別物だと考えておいた方がいい」




