第12話 遺志
スピーカーから破裂音が鳴り、会議室の全員が耳を覆う。
沈黙する会議室をよそに無人艇2艇は別々の方向に逃げるが、無人艇Aが捕まり、無人艇Bも由比港を目前に沈められた。
会議室に、その場の沈黙を破る言葉を持つものはいなかった。
そんな時、俯いていた山崎が急に顔を起こし、周囲の視線が集まる。
山崎:「…さっき無人艇が襲われる瞬間……MAPの表示がおかしくなかったですか?」
碧が目元を右手の袖で拭い、顔を上げてPCの操作を始める。
手が震えているのか、碧にしては珍しく、操作ミスが目立つ。
MAPに表示されるポインタの表示を巻き戻すと、無人艇に近付く“クイーン”を示す赤い点が点滅していた。
碧:「……桃の参型【祓】に搭載される予定のGPSです。
参型はまだ調整が上手くいかずに未完成ですが、情報は統合済みでした。
IDは──知多さんが預かっている試作機の一つと一致します」
響:『……知多さんの意思は……生きてるんスね…』
議長:「参型は未完成だが、保護機構とスパイク、そしてGPS自体は動作出来る。
潜水艇内に持ち込んでいたのだろう。
…最後を悟っていた知多君が、潜水艇が破壊される衝撃で起動するよう、電源を入れていたのだろう」
碧:「無人艇のカメラ、再生します」
作業を進めていた碧が、潜水艇圧壊直後を映す無人艇カメラを再生し、ポーズをかける。
稲垣:「…知多のやつ、やり切ってたんだな」
カメラに映る亀裂は、アップデートされた桃の壱型【封】によって封印が完了していた。
議長:「我々に哀しみに暮れている時間はない。
知多君はあの状況で、完璧な仕事をこなしてくれた。
ならば我々は、知多君に最後に託された、“クイーン”の対処を完遂しなければならない」
響:『…弐型【刃】は自動追尾だけじゃなく、知多さんが俺の為にドローンとしての操縦機能をつけてくれました…。…知多さんの仇は、俺が取ります』
稲垣:「知多はたった一人で後続を切っただけじゃなく、”クイーン“にも首輪を着けてくれました。
俺らが雁首揃えて黙り込んでたら、知多の功績がなかったことになります。
知多を英雄にするのも蛮勇にするのも、俺達次第だ。
…議長、まずは知多のつけてくれた首輪の詳細を教えてください」
議長:「知多君が遺してくれた桃の参型について説明する」
議長が視線を碧に向けると、碧が頷き、大型モニターに桃の参型【祓】に関する資料が表示され、一部の文字や図が灰色に塗り潰される。
議長:「まず、今回のGPS信号から、知多君が現場に持って行ったのは初期型の試作機だと分かる。
これは動作の一段階目を確認するためのもので、衝撃を感知し、返しのついたスパイクを展開する機能と、GPSしか搭載していない。
構造が最もシンプルで、確実なものだ。
確実性を重視する技術者である、知多君らしい選択だと思う。
外壁に強い衝撃が加わると、コンマ数秒の時間差でスパイクが展開し、返しのついたGPSが禍津鰐の口の中にセットされる。
このGPS信号は浅い水深に浮上した時にしか拾えないが、一年以上信号を出し続けることが出来る」
教授:「完成した参型本来の機能を発揮するため、ということだね」
議長:「そういうことだ。
だが、参型はまだ完成していない。
そして爆発を伴う通常兵器の使用も、黄泉の国の外壁を崩しかねんことから、駿河湾内での行使は出来ない。
そこで開発されたのが桃の弐型【刃】だ。
一部恒温性を持つと推測されていた禍津鰐対策弾として、サーモカメラで捉えた画像でAIによって追尾する機能を持つ。
一部恒温性に関しては、知多君が今回潜水艇に搭載していたサーモカメラにより、“クイーン”が海水よりも高い体温を持つことが実証され、確定している。
それに加え、先ほど響君が話していたが、ドローンとしての操作機能も知多君からの要望で実装されている。
以前行われたシミュレーションでは、AIによる追尾よりも響君の勘に頼る操作の方が、30%近い命中率の差を叩き出している」
響:『…禍津鰐をこれだけ見た今なら、絶対に外しません』
議長:「とのことだ。
…だがちょうど今、総理によるフェリー事故の件と昨年の黒影についての会見が行われている。
おそらくだが、面倒なことになる。今後の作戦にも影響が出るだろう。
山崎君の研究結果は一部公開されるだろうが、山崎君を守るため、しばらくは研究者の名前は伏せることになる。
情報は共有するが、今日は一旦解散としよう」




