第6話 政府会議③──推測
静まり切った会議室の空気の中、白井が静かに手を挙げる。
議長:「白井君」
白井:「新しい亀裂箇所ですが、前回と同じ場所で、ほぼ間違いないと思います。
今回の地震は前回のような海溝型地震ではなく、内陸型地震でした。
もちろんどちらもプレートの変動によるものですが、力のかかる場所が違います。
大きく崩れたとすれば十中八九、弱っていたあの場所でしょう
また、崩落を起こす場合のシミュレーションもされており、意富加牟豆美命壱型【封】でカバー出来る範囲に収まると試算されています」
碧がモニターに資料を映し出す。
稲垣:『ロレンチーニ器官に傷を負っていない禍津鰐ですが、特に大事なノイズで誘導出来るのかは、防波堤への誘導可否で分かるはずですよ。
ノイズに釣られるようなら知多は出ればいいし、釣られないなら出るべきじゃない。
それに、釣られて来るのが31メートル級一頭なら一頭の可能性は上がるし、別の奴なら複数頭いることが確定する』
教授:「…そうだな。亀裂に関してはほぼ確定としていいだろう。そこが確定するだけでも、大きな意味がある。
黒影と同じ理由かは分からないが、ノイズ発生装置に寄って来るのかは測れるか。
個体数も目安にはなる…」
議長:「まだ納得とまではいかなそうだな」
教授:「いや、言っていることには筋が通っているし、納得はしているさ。
実際に、前回は今以上に推測が多かったから、今回はマシな方だろう。
ただ──前回は黄泉の国を外洋と全く違う環境であると想定しなかったことで、潜水艇と黒影を鉢合わせさせてしまっている。
昨年から様々な考察をして来たが、まだ見落としがあるのではないかと考えてしまってね。
特に今回は、ロレンチーニ器官への傷や酸素濃度にハンディを抱えていた黒影ではなく、万全に近い最大級の個体だ。一つ間違えれば、被害は測り知れないからね」
議長:「…そうだな。時間はないが、作戦の成功率を上げる策を出せる者はいるか?」
山崎:「禍津鰐、前回は黄泉の国へ帰しましたが、最悪の場合は殺処分もありでしょうか?
早ければ公表のタイミングでは決着がつくこともあると思います。殺処分をしたという発表は、政府としてはありですか?」
議長:「もちろん、殺さずに我々と棲み分けをするのが理想だ。
だが、“出来るだけ”前回同様の決着をと言われている。絶対とは言われていない。
少々卑怯な言い方かもしれんが、私に言えるのはそこまでだ」
山崎:「では知多さん。桃の弐型【刃】を潜水艇に今から装着する事は可能でしょうか?」
知多:『……可能です。…弐型【刃】も…念の為に持って来ています。…装着も…突貫ですが…この場の物で出来ます』
議長:「桃弐型【刃】、対策弾はドローン操縦と自動追尾とある。自動追尾ならば1人でも使えるか」
知多:『…今から…すぐに取り付けます。…会議は…音声だけ聞いています』
議長:「よろしく頼む。不測の場面では、使用もやむを得ん」
教授:「不測の事態でも、一頭は始末出来る可能性があるということか…。
だが、自動追尾は禍津鰐が一部恒温性だという仮説の基に作られている。また、追尾性も完璧ではないし、着弾後の機能麻痺に関してもあの大きさだ。大きなラグが生じる。
使わないに越したことはない」
議長:「そうだな。投薬量の調整は先程完了しているが、いかに即効性の薬品と言えどもラグは発生する。シチュエーションにもよるが、追尾と言っても必ず命中する訳ではない。
使わざるを得ん状況に置かれる時点で生還の可能性は著しく落ちると言ってもいいだろう。
──ちなみにだが教授。今、最大級の個体が単体で出て来ていると仮定して、そんなことが起こり得る状況は想定出来るか?」
教授は顎に手を当て、考えながら話す。
教授:「そうだな。安直な答えだが、“クイーン”が出た後で亀裂が崩落して塞がったとも考えられるが──それ以外なら出産…とかだろうか」
禍津鰐が外洋で増えるという可能性に、会議室の空気がざわついた。




