第5話 政府会議②──疑問
ヨモツヒラサカ作戦への懸念事項。
議長の問に最初に手を挙げたのは、オンラインで参加中の響だった。
響:『一つ疑問があるのですが、潜水艇をドローン化するのではなく、ドローンにその役割を持たせるのではいけないのでしょうか?
前回と違い、意富加牟豆美命壱型【封】の発射以外の役割がありません。IZANAMIマーク2のように遠隔のドローンではダメなのですか?』
山崎は、響が正しい敬語を話していることに驚愕する。
前回の作戦以降も幾度か連絡を取っていたが、「〇〇っス」という話し方が響なりの丁寧語なのだと思っていたが、思い返せば響も社会人だったことを思い出した。
議長:「もちろんその案も出ていた。だが──それに関しては知多君から説明があるようだ」
知多がオンラインの画面で手を挙げていた。
知多:『…説明…していなかったんですが、意富加牟豆美命壱型【封】は…角度と展開のタイミングが…とても…繊細なんです。
…それに…重量もあります。
…音響通信で動作する調査ドローンでは…通信のラグも重量も…要件を満たしていないんです。
…もちろん響くんほどの空間把握能力があれば…別ですが。
…海流を読むのも…僕には現地でないと無理です』
響は少し悩んだ後、頭を右手でゴシゴシかじってから正面を向く。
響:『…了解っス。囮が俺の役割っス。知多さんのことは、絶対にオレが守るっスよ』
画面越しに響は親指をカメラの前に突き出して見せる。
それを見た知多も、柔らかい笑顔を見せた。
議長:「すまないが、今回も2人に作戦の成否がかかっている。背負わせてしまうことになるが、よろしく頼む。
他にはないか?──山崎君」
山崎:「黒影はロレンチーニ器官付近の怪我で、感覚が過敏になっていた可能性も、鈍感になっていた可能性もあります。過敏になっていたのなら最大の電磁ノイズでも、前回ほどの時間は麻痺させられない可能性があります。何か対策はありますか?」
議長:「専門家らしい疑問だ。これを見てくれ」
議長が碧へアイコンタクトをすると、モニターが駿河湾のMAPに切り替わる。
議長:「前回は極秘の作戦だったゆえ、作戦で使用したフェリーの港であり、周囲からの視線を切れる清水港から出港した。
だが今回はその制限が解除される。
無人の小型艇は前回同様に三保真崎の防波堤で“クイーン”を麻痺させるが、潜水艇は亀裂の近くにある由比港より出港する。
これでエンジンを使用する時間も短縮出来、“クイーン”との距離も稼げるはずだ」
MAP上に前回のルートが赤の点線で示され、今回のルートは赤の実線で描画される。
前回同様に、時計回りの駿河湾内の海流に乗ってドリフト潜航するため、少し周り込んでいるが、それでも半分以下の距離で済むだろう。
稲垣:『確かにこれなら、半分の時間で回復されてもどうにかなるかもしれませんね』
眠気がないからか隣に蘭がいるからか、稲垣が前回ほど緩くない気がする。
顎に手を当てながら無言を貫く教授に、議長が声をかける。
議長:「教授、何か心配なことでもあるのか?」
教授:「いや、すまない。ただ、何かを助言しようにも、まだ情報が足りない気がしてね」
議長:「そうだったな。教授は情報が集まりきってから活躍する、慎重な性格だったな。
ちなみに今、足りていないと感じる情報は分かるか?」
教授は少し悩んだような仕草をしてから、ぽつりぽつりと話し出す。
教授:「そうだな…、まずは亀裂の状況が不明だ。
黒影より遥かに巨大な“クイーン”が出ているのだから、前回よりも大きな穴が開いたのは確かだろう。だが、その状況が分からない。また、脆くなっていたとはいえ、前回と同じ場所に開いたというのも100%ではない。
亀裂の映像で確定していた前回とは、状況が違う。
次に、なぜ1個体なのかが分からない。
前回の亀裂から“クイーン”が出て来られなかったのは分かる。だが、今回これだけ大きな個体が出て来て他の個体が通過することが出来ないというのは、少し疑問が残る。
最後に、ロレンチーニ器官に傷を負っていない禍津鰐の反応を、我々は知らない。
他にも疑問はあるが、特に重要そうだと思ったのはその3つだ」
由比港からの出港で一瞬だけ緩んだ空気が、教授の3つの懸念で再び重くなる。
会議室には、資料をめくる音すら消えた。




