第2話 招集
山崎視点です。
山崎が大学の講義を受けている最中、震度4の地震が静岡を襲った。
幸いにも津波はなく、被害もほぼなかったため、構内放送で講義の続行が告げられた。
その講義が終わると、山崎は鳥井教授の元へ向かった。
ノックの返事を聞いて居室に入ると教授はその時間に講義がなかったらしく、コーヒーを片手にパソコンを触っていた。
教授:「今ここに来たということは、封印のことかな?」
山崎は頷く。
教授:「君の所へもメールが来ていると思うが、今しがた駿河湾フェリーが座礁したという救難要請の無線が入ったらしい。
地震の直後、駿河湾にあるはずのない岩礁にフェリーが座礁している。
これは偶然だと思うかい?」
山崎は首を横に振りながら答える。
山崎:「偶然では…ないんでしょうね。知多さんと白井さんの調査で最近発見されたばかりの封印の緩み。…対策が急ピッチで進んでいた所でのこれなので。
そもそも、僕達に共有されるということは、政府も禍津鰐の可能性を視野に入れているということです。
ところで、亀裂跡を監視する有線カメラが設置されるという話がありましたが、まだ設置は終わっていないんですか?」
教授:「残念ながらまだだ。封印の緩みが発見されて2週間足らずだからね。今月半ばから着工と聞いているよ」
10カ月にも及んだ、音波による黄泉の国の大凡の範囲を特定する調査が終わり、追加調査の最中にそれは発見された。“桃”によって仮封印した上からコンクリートで固めた、亀裂の封印。
それが今、コンクリートの重さで周囲まで崩れかけているという調査結果が上がっていた。
原因は構造とコンクリートの重量。
囮ドローンが撮影した黄泉の国の映像と今回の調査報告を合わせた結果、黄泉の国は柱状節理とリアス式海岸のような内壁の構造がドーム形状と合わさり、構造で重量を分散して支えていることが判明した。
プレートの変動で応力が集中して崩壊した亀裂は、周囲にもダメージを残していた状態だった。そこに構造としての強みを持たないコンクリートが、点荷重として乗ったことが、封印周辺の崩落危機を招いていた。
そして初期の調査で判明しなかった理由は、“桃”の内部の空気だった。
桃は高耐久のエアバッグであり、当然中には気体が入っている。
その浮力がコンクリートを支えていたが、少しずつコンクリートの隙間から抜けていき、コンクリートの重量を支えられなくなっていたのだ。
それでも、まだ半年は猶予があると試算されており、急ピッチで置き換えの計画が進んでいた最中の地震だった。
山崎:「あそこが崩れたとなると、前回よりも大きな穴が空いているでしょうね」
教授:「崩れたとすれば、そうなるだろうね。ならば、私達への招集も近いだろう。知多くんと響くんには既に招集がかかり、状況が確定次第動くことができる準備をしているそうだ」
山崎:「準備されてきた対策マニュアルの通りですね。では僕らも招集がかからないまでも、何が起こりうるか考えておく必要がありますね。
…大きな穴が開くということは、より大きな個体が出てきたり、複数頭の禍津鰐が出て来る可能性があるんでしょうか」
教授:「どちらもあり得るだろう。ちなみに大きい個体ならば、君はどのぐらいを想定しているのかな?」
山崎:「黒影はオスでした。さらにオスの最大個体とも限らない…。サメ全般で言えば、メスはオスよりも10〜30%大きくなる事があります。禍津鰐にもそれが当てはまるのなら黒影を基準にしても、メスの成熟した個体は30メートルを超えて来るでしょうね」
教授:「それが複数個体出てくる可能性があるか…。前回のヨモツヒラサカ作戦は複数個体に使用できると思うかい?」
山崎:「不可能…でしょうね。桃の壱型【封】のバージョンアップで封印自体の能力は上がっていますが、囮ドローンは単体しか想定していません。
複数個体に対応する為の参型【祓】は完成していませんし、弐型【刃】での対処も個体数が増えれば危険度は上がります」
教授:「そうだね。複数個体に対しては弐型では危険であるのは事実だ。さらに通常兵器も、海中の化け物は想定されていないし、爆発物は亀裂を広げる恐れがある。
──とはいえ今回、恐らく前回よりも戦略の幅は広がる。
フェリーの事故が禍津鰐によるものであれば、恐らく大きな被害が出るだろう。だとすれば、少なくとも巨大鮫による被害だということは公表せざるを得ない。
そうなると前回のような極秘の作戦ではなく、より多くの機関を巻き込んだ作戦も可能となるだろう。
だが、依然禍津鰐に対する対策は乏しいままだ」
山崎:「それに、公表されれば色々と面倒なことになるでしょうね」
教授:「そうだな。熊の被害と一緒で共生を訴える声は出るかもしれないし、国外からも検体の独占を望まない声が出てくるだろうね」
その時2人のパソコンに、同時にメールが入る。
メールのタイトルを見た教授は顔を上げる。
教授:「来たようだね」




