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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト
第1.5章 山崎の夏休み

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EP-7 成長

1最終日の水族館バイト。

稲垣と共に回った、各担当の方から「冬も来るんだろ?」「卒業したら同僚だな」などと声をかけられ、手伝いと挨拶をして回った。

短い間だったが蘭から課せられた報告義務のお陰か、良く知らない人と話すことへの苦手意識が、少しだが薄れて来た手応えを感じた。


いつも通り稲垣を待つ間にサメの観察に行くと、売店で買って用意してくれていたTシャツをプレゼントとして渡してくれた。

受け取ってから勢いよくお辞儀をし、思わず「また来ます!」と、次回のリゾートバイト宣言をしてしまった。


稲垣家へ戻ると、「忙しい」と言っていた教授が、ちょうど2人が帰宅するタイミングでやって来た。

「オンライン会議で進めている“桃”の仕様書の作成も大詰めだからね。昨日論文も完成したと聞いたから、ついでだから読みに来たよ」などと言っていたが、稲垣と蘭はいても、肝心の製作をする知多は静岡にいる。

論文だってメールで送れることを知らないような機械音痴ではない。

そして、この程度の矛盾に気づかれないと考えるような人物でもない。


…何か隠しているということを、あえてヒントを出して楽しんでいるやつだろう。



今日は報告義務が、夕食の前にあった。

その間教授は、赤ペンを片手に論文を読んでいた。


稲垣の報告には、「こいつ、いつも観察させて貰ってるとこでTシャツプレゼントされたら、感極まってまた来るって宣言したらしいぞ」と、いつの間にか仕入れていた情報が混じっていた。

蘭が、「じゃあ次からは臨時で書斎じゃなく、誰かが模型とか買い込んでいる部屋を空けて、専用の部屋を用意してあげなくちゃいけないかしら」と言うと、稲垣が一瞬黙り込んだ。


また来ても、歓迎してもらえそうだなと感じていると、自分の番が回って来る。


まずは感謝を伝えた。

そして、水族館バイト以上に、この家での全てが、自分を成長させてくれたと結論を語る。

次に、人と話すことに少しだけ自信がついたという事実を伝え、自分がアウトプットが苦手だということを見抜いて育ててくれたのではないかと推論を説明した。


最後に、報告で学んだ喋り方の構造化、蘭が教えてくれるデータの分析、碧の教えてくれたAIによるデータ

の統合。

それらの勉強を帰った後も継続していくというように今後の課題を説明し、またこの家に来させて欲しいとお願いをした。


蘭はいつもの微笑みや効果的な所で見せる笑顔ではなく、慈しむようなその笑顔は、この12日間で一度も見たことがないものだった。


蘭:「先ほども言ったけれど、いつでも来られるように部屋を一つ空けさせるわ。

そして、あなたの成長は毎日感じていたのだけれど、今日の報告には全てが詰まっていると感じたわ。

教授には悪いけれど、この人の助手になれるように育てるつもりだったの。

でも、卒業するぐらいまでには右腕ぐらいになれそうだと、今は感じているわ。

論文完成のお祝いと、誕生日と成長のお祝いで、今晩は初めてのお酒を飲みましょう」


山崎は少し感動しながら聞いていたのだが、最後で驚きを見せる。


蘭:「初日に言ったでしょ?あなたのパーソナルデータは共有されていると。

今日で20歳になったのでしょ?論文もあるのだけれど、この為に教授にわざわざ来てくれないか打診したの。

友達と飲むのもいいけれど、初めて飲むなら、大人達に見守られて飲む方がいいわ。

…それとも、今日飲むのは気が進まないかしら?」


山崎は勢いよく首を振って否定する。


山崎:「そんな、全然嫌じゃないです!」


蘭は、また優しい笑顔になる。


蘭:「そういう時は、女性には嬉しいと言うべきよ。今後の為に覚えておきなさい」


その時教授が論文を読んでいた部屋のドアが開く。


教授:「赤ペンを用意したが、必要なかったよ。

このまま提出して大丈夫だ。

元々"書く分には"、学生レベルでは上手い文章を書いていたが、見違えるように上手くなっている。

2人の手伝いがあったのだとは思うが、成長したな」



教授も揃ったので、いつもより豪華な夕食と、それぞれにお酒が配られる。

山崎の前には普通の物よりアルコールがかなり抑えられた果実のチューハイが置かれた。


稲垣:「まぁ、とりあえず今日はそれ飲んどけ。酒に強いのかどうかも分からないからな。

それに、酔っ払うんじゃなく、一番気持ち良いほろ酔い状態を長く楽しむのが大人の飲み方だ。

過剰に酔っ払えば酒が嫌いになる。とりあえず今日は、ほろ酔いって感覚を覚えとけ」


その後、教授が乾杯の音頭を取り、4人が1口目を飲んだ所で蘭が立ち上がる。


蘭:「碧さんには、私の方から論文のデータは送っておくわ。私もすぐに戻るから、3人で飲んでいてね」




しばらくすると蘭が戻って来て、山崎の顔を見ると、「フフフッ」と小さく笑った。

その笑いの意味を考える間もなく山崎のPCから、Eメールの着信音が鳴る。

教授に論文を印刷して渡した後、ログオフしていなかったのを思い出す。


送り主は碧で、『私には誕生日が情報共有されていないのですが。師匠ポジだと思っていたのですが』と、素が隠しきれていないメールが届いていた。

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