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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト
第1.5章 山崎の夏休み

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EP-5 竹鶴 碧

バイトを頑張りながらも、最初よりは出て来た余力で休憩中や稲垣の仕事終わりを待つ時間を、現生の海獣類の観察や禍津鰐の情報を整理することに使い、マインドマップやその他の資料を見て仮説を立てた。


その際、分割思考で得た考えが“黒影”の行動を解析するのに役に立った。

“黒影”の行動原理は、一つではなかった。

正確には、状況に応じてさらに優先されるものがあったというのが山崎の立てた仮説だった。

前回の講義から5日後に叩き台となる論文を碧へ提出し、整理したデータを共有した。


そして約束していた7日後の20:00。


ルームに入室すると、前回と同じく片耳だけ髪をかけた碧が待っていた。

ただし今回は、政府らしい壁紙が設定されており、部屋の様子は見えなかった。


碧:『お疲れ様です。本日も時間通りですね。では始めましょう』


山崎:「よろしくお願いします」


山崎が頭を下げると、碧も会釈を返す。


碧:『その前に一つ。先日提出していただいた“禍津鰐(まがつわに)”の論文を拝見いたしました。

まだ叩き台とのことでしたが、山崎君の仮説は確度が高いと判断し、父に共有させていただきました。

父の依頼で知多様の調査にセンサーを追加していただいた結果、亀裂があった箇所を中心に、酸素濃度が上がっているとのデータが採取できました。

これにより山崎君の仮説の裏付けは取れました。

父も期待しています。完成稿が出来上がりましたら、危機管理局内で共有させて頂きますね。

それに伴い、“禍津鰐”という種としての名称も、政府内で正式に採用される事になります。

鳥井教授がおっしゃられていましたが、もしも箝口令が解除される時が来ましたら、山崎君が権威ということに異を唱える者は、少なくとも父の周りにはいないでしょう』


想像以上の自分の仮説への反響に、山崎は言葉を失う。


山崎:「……ありがとうございます。手伝って下さった皆さんのお陰ですし、蘭さんや碧さんが教えてくれた手法を知らなければ、辿り着けたのか分かりません」


碧は、花が咲いたと山崎が錯覚するような笑顔で答える。


碧:『そう言っていただけると、講義をした甲斐があります。論文には私の名前も載せてくださいね』


山崎が照れて静かになっていると、碧が本題を口にする。


碧:「では、本日の講義に入りましょう。

本日は、静的なデータを使用した、動的なシミュレーションの作成を行います。

例を出しますと、ヨモツヒラサカ作戦時に私が作成した、海保や気象庁の潮流データをベースとした、潜水艇のドリフト軌道のリアルタイム予測です。

山崎くんは実際に潜水艇の中でその潜航を体験しましたが、精度はいかがでしたか?』


山崎:「知多さんが舵取りはたまにしていましたが、モーターをちゃんと使ったのは、最適な位置と向きで止める時だけでした」


碧:『データの正確さと、元にした計算の精度あっての事ですが、想定以上に正確に計算出来ていたようですね。

本日は私があの時に頂いたデータを送りましたので、山崎君の方で、同じように潮流のシミュレーションをしていただきます』




1時間と少し経過し、山崎が作成したシミュレーションが、碧の作成した物とほぼ同じ軌道を算出した。


碧:『私が作成したものと同様のものが出来ましたね。

では、今後実施していただく、私からの宿題を出しておきますね。

本日やっていただいた潮流のシミュレーションは、データの統合のほんの一例に過ぎません。様々なパターンでデータの統合を経験していくことで、新しい物を自分で組み立てられるようになっていただきます。

もちろん、完成品の報告の時だけでなく、壁にぶつかった時でも、遠慮せずに聞いて来て下さい。

いつでも対応出来る訳ではありませんが、必ず力になりますので』


碧が優しい笑みを浮かべた。


そんな時、ガチャリ、とドアが開くような音と同時に、男性の声が聞こえる。


竹鶴:『会議が終わった。部屋が空いたから使っていいぞ』


オンライン会議の背景が一瞬だけ揺らぎ、色鮮やかなポスターやぬいぐるみが刹那の間見える。

その画面を見て、明確に動揺する碧。


碧:『パパ!会議するって言ってたじゃん!入って来ないでよ!』


碧が慌てて大きく体を動かした瞬間、再度複数枚のポスターやぬいぐるみ、そしてフィギュアが映る。

竹鶴が『すまん』と言って退出後、ハッとした顔をした後、碧が頭を抱える。


碧:『…※※※※※……』


俯いたまま何か小さく呟いたが、何と言ったのか分からない。


山崎:「…はい?」


碧:『…忘れて……。見なかったことにして!』


薄いピンク色のクッションで勢いよくカメラを隠されてしまい、そのままルームを閉じられてしまった。


1週間前の部屋とは真逆の部屋だったが、議長の言った事と、先週机の上にあった竹製の万年筆──あれは議長の書斎だったのだろう。


宿題も出されていないが、今後、メールで質問をしてもいいのだろうか…

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