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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト
第1.5章 山崎の夏休み

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EP-4 オンライン講義

山崎が稲垣家に来て3日、水族館バイト2日目。

同じく多忙だったが、1日目の“何も分からず付いて行くだけ”の状態よりは精神的に楽で、体力的にも少し余裕が出来ていた。


バイト時間の終了後、稲垣の仕事が終わるまで自由に見て来いとのことで、海獣類やサメを中心に観察した。

1日目は、バイト終了時間を過ぎても稲垣のデータ入力を手伝わされたが、その理由が理解出来た。

入力したデータのことを意識しながらだと、今までの観察と比較して、より細分化して観察する事が出来た。


夕食後の報告でその点について話すと、稲垣も蘭も黙って頷いていた。

それに加えて、稲垣は機材の不調や獣医師の手伝い等、色んな人から頼られていることなど、職場での稲垣の人間関係に関しての感想を話すと、やはり蘭は無表情のままだったが、目の奥にわずかに嬉しさが滲んでいた。この方向性の報告は毎日入れようと思った。


続いて黒影に関して、ひたすら思いついたことを書き出した紙を見せると、蘭がいくつかの改善点を挙げた。


・中心に核となりそうな言葉を集め、カテゴリを意識しながら周辺にレイアウトしていく

・重要な言葉は太字や大きな字で書いて重要度を示す

・矢印で関係性を示す

・同義語をまとめる

・曖昧な言葉には補足を入れる


必ずやらなければいけないという訳ではないらしいが、AIが構造化しやすく、精度が上がる。何より、自分が頭の中で整理しやすくなるとのことだった。

20:00からのAI講義に間に合うよう、蘭が構成のダメ出しをし、稲垣が元の資料に分類毎に色でマルをつけ、山崎がそれを必死に反映させて清書した。


20:00、稲垣と蘭は知多とのオンライン会議に。山崎は、寝泊まりしている、稲垣の書斎で議長の女性秘書が開いたルームに繋いだ。


PCのモニターには、山崎より少し年上ぐらいの、スーツ姿の女性が映っていた。

黒髪のストレートロング。政府会議の時は清楚な印象だったが、今日は蘭と同じく片耳だけ髪をかけていて、実務的で仕事の出来る雰囲気が強くなっていた。


後ろに映る本棚は、稲垣の書斎よりも堅いイメージで、真っ黒い背表紙の本ばかり並んでいる。

机も高そうな木の机に、議長が持っていたのと同じような竹製の万年筆が立てられていた。


碧:『時間通りですね。前回は紹介されていませんでしたが、竹鶴(たけつる) (あおい)と申します。山崎様、改めてよろしくお願いいたします』


碧さんは画面の向こうで着席したまま頭を前に倒す。

山崎も慌てて頭を下げ、「よろしくお願いします」と返す。


蘭の言っていた言葉の意味がようやく腑に落ちた。竹鶴──議長の娘なのだ。


碧:『…その反応、私が議長の娘だと知らされていなかったのですね』


碧は淡々とした喋り方のまま、顎に手を当てて考えるような表情を作ると、何かを納得したように、頷いてから(つぶや)いた。


碧:『蘭さん……意外と、可愛いところがありますね』


そう言いながら表情が、一瞬緩んだ。


山崎:「やっぱり議長の娘さんなんですね。蘭さんは、『正体を知ったらビックリする』としか教えてくれなくて…。あと、“様”というのはなしで大丈夫です。僕は教えていただく立場なので」


蘭の話をした所で碧が少し悪戯(いたずら)っぽく微笑む。無表情に見えていたが、蘭と違って意外と表情が豊かなのかもしれない。


碧:『そうですか。では、山崎君。あなたの課題や進捗については、昨日の時点まで蘭さんから共有されています。マインドマップを作る為に、AIに読み込ませるベースを作成しているという話を聞きましたが、完成しましたか?』


山崎:「はい。元々ただ書き出しただけだったんですが、先ほど蘭さんと稲垣さんに手伝って貰い、清書しました」


山崎はオンラインに繋ぐ前にスキャンしておいた、先程完成した資料を画面に表示する。


碧:『蘭さん、さすがですね。マインドマップを作らなくてもいいレベルで整理されています。これなら頭がだいぶ整理されたのではないですか?』


口調は変わらない。だが、今まで感じていた堅い印象とは違い、声に混じる興奮の色に、わずかにオタク気質を感じた。


山崎:「はい。先程完成したばかりですが、もう既に、全てを繋げて考えていたことが行き詰まった原因だろうという所までは気付かされました」


碧:『ちなみに山崎君は、NotebookLMというAIは利用したことはありますか?』


また、淡々とした口調に戻っている。


山崎:「ないですが、どんなものか、軽くは知っています」


碧:『左様ですか。今回使用していただくのは、その設計思想を汲んだ、政府専用のセキュアなAIです。

簡単に言うと、自分が載せた資料を優先して引用し、回答するAIです。

ネットをソースにしてしまうと、メガロドンが“空想上の巨大ザメ” のような存在になってしまいます。

ですが、山崎君には、生きた“禍津鰐”から得た情報があります。ネット情報の“ノイズ”に惑わされず、正確な答えを導く為、今回はこちらのAIを使用します。

また、マインドマップ単体の独立したツールもありますので、こちらが最適だと判断しました』



1時間半ほどの講義で専用AIの使い方を学び、碧から提供された“黒影”に関する資料を貰い、各種ツールの使い方を学び、マインドマップを含め、いくつかの分析資料を作成した。


碧:『理解が早くて助かりました。では7日後に、もう一段階上のAIの利用法を勉強しましょう。

バイトで疲労が溜まっているとのことですが、それまでに山崎君が得た情報。そして鳥井教授や稲垣さん、山崎君の考えを事実と推測をしっかり区別してソースを完成させて下さい。

今回はAIについてのみ勉強しましたが、データの分析では、私は蘭さんには敵いません。少し話をさせていただいただけで分かりました。

蘭さんからデータの分析を習い、稲垣さんの自宅での研修が終わりましたら、自分でも書籍等で学習を進めるのがいいかと思います』


山崎:「了解しました。お忙しい中、今日は本当にありがとうございました」


碧:『こちらこそ、山崎君から共有していただいた現場での情報は、解析をしていく上で大変参考になりました。蘭さんと共に解析したデータを、これからも共有していただけると助かります。

1週間後にまたよろしくお願いいたします」


お互いにお辞儀をしてルームから退室した。

疲労はあったが、頭の中は不思議と澄んでいた。

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