EP-2 稲垣 蘭
蘭:「稲垣は私が育てました」
初日の夕食後、稲垣と蘭の報告があった。
どちらも休日の何気ない事や研究等を、端的に説明していてとても分かりやすかった。
そして、稲垣が詰まっているという箇所に蘭のアドバイスが入り、二人の報告は終了する。
二人の視線が山崎を向く。
山崎:「…僕は“黒影”についての論文の為に、稲垣さんの部屋の本を読ませてもらっていました。でも、どうしても“黒影”の行動にわからない所があって…。
“黒影”は電磁ノイズ、振動、音の順に反応するという稲垣さんの実験結果があります。
実際に電磁ノイズに過敏に反応していました。
ロレンチーニ器官のある鼻の辺りに傷を負っていたので、それで過敏になっている可能性もあります。
なので、電磁ノイズはエサとしてではなく、あくまで不快なノイズだと思っているのかもしれません。
でも、それでも納得が行かないのが、麻痺から回復した“黒影”は、真っ先に水深200メートルでモーターも切って静かに待機していた潜水艇の所へ来ました。電磁ノイズ、振動、音を発生させていた水深100メートルの発生装置でも、エンジンをかけていた水上のフェリーや小型艇でもなくです。
しかも、違和感を覚えていただけで、認識していなかったのにです。実際に、“黒影”が潜水艇を認識したのは戻って来た時でも、潜水艇を掠めるように泳いで確かめている時でもなく、物を落として振動が伝わってしまった後なのにです──」
蘭が掌を差し出し、山崎を静止する。
蘭:「ちょっといいかしら。
山崎くんの抱えている問題は、なんとなくは分かったわ。…なんとなくね。
でも、そちらへのアドバイスの前に、まずはあなたの説明に関して。
今の説明では、要点が相手に届かないわ。
まずは結論を先に言うことを意識しなさい。
結論を先に言うのは、相手に“地図”を渡すのと同じよ。
地図がないまま聞かされても、あなたの意図を探しながら聞けば、情報過多で迷子になるわ。それでは伝えたいことの半分も伝わらない。
結論を先に伝えるだけで、相手は頭を整理しながら聞くことが出来るわ。
次に、事実と仮説は別けて話しなさい。
あなたは自分が伝えたいことが整理出来ていない。
会議の議事録は読んだわ。事実・推測・仮説を分けて整理していたでしょう?
その時の会議に出ていたあなたなら、この重要性は分かるはずよ。
今の話なら、
結論 :"黒影"の行動に矛盾を感じる
事実 :黒影の反応順
仮説 :ロレンチーニ器官の傷で過敏に反応
問題点:直接潜水艇に来た
という順かしら」
意識して聞くと、蘭の説明の“滑らかさ”と自分の話の“ぎこちなさ”の差に、山崎は自分の説明の稚拙さを思い知った。
山崎:「…意識していけば、僕にも出来るようになりますか?」
蘭は笑顔を見せながら答える。
蘭:「大丈夫よ」
言い切るや否や真顔に戻ったかと思うと、流し目で稲垣の方を向きながら話を続け、途中から微かに表情が緩む。
蘭:「この報告という習慣も、人に説明する事の重要性を理解していなかった、研究バカの為に始めたことだから」
山崎が稲垣の方を横目で見ると、稲垣はバツが悪そうに頭を掻いていた。
稲垣:「こいつの言うとおりにしときゃー間違いない」
蘭:「じゃあ次に、あなたの研究の話ね。
まず、山崎くんはデカルトは知っているかしら?」
山崎:「『我思う、故に我あり』の人ですよね?」
蘭:「哲学者としてのデカルトね。
デカルトは哲学者として有名だけれど、思考法の提唱者でもあるの。
その中の一つが『困難は分割せよ』という教え。
どれだけ困難に見える問題でも、大概は小さな問題の集まりであり、分解すれば必ず糸口が見える──という考え方よ。
AIには、【マインドマップ】という【分割思考】の為のツールがあるわ。
使い方は秘書さんに教えてもらうとして、まずあなたは、関係すると思うキーワードを、一枚の紙にできるだけ書き出しなさい。
それをAIに読み込ませて、AIに整理させるの」
稲垣:「そろそろ山崎も“情報過多”だろ。オンライン会議が始まるまでの間は手伝ってやる。あっちで書き出すか」
秋葉原旅行 2 日目・完結。
朝のホステルでは、歯磨きに向かった際に外国の方と会ったので挨拶をしたのですが、よく知らない言葉で挨拶(?)を返されました。
……そうですよね。英語圏の人だけが来るわけではないですよね。
その後は特記することもなく、個人用に左右分割キーボードというニッチなものを購入。
午前中に浅草へ移動しようとしたところ、東京メトロが「安全確認」で数分間発車せず、帰りの山手線も同じく「安全確認」でストップ。
さすがに鹿はいないでしょうし、東京には千葉からキョンでも流れて来ているのでしょうか……。
その影響で地元のバスに間に合わず、タクシーに乗ることに。
チーバくん……許すまじ。
※八つ当たり




