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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト
第1.5章 山崎の夏休み

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EP-0 禍津鰐

短期連載「山崎の夏休み」は会話メインの話の為、少し書き方を変えます。

第24話 エピローグから数日後の話です。

夏休みの水族館バイトに山崎を誘いに来た稲垣が、教授の居室に顔を出していた。

結果、山崎は稲垣の家に12日間居候し、稲垣の務める水族館で働くことが決まった。

やるべき事を終え、教授の出したコーヒーを飲みながら3人で雑談している。

教授の机の上には、新調したノートPCが置かれていた。



教授:「稲垣くんもいたが、フェリーで白井くんと飲んでいる時に面白い話になってね。

あの『黄泉の国』は、およそ1500万年前──日本が今の形になる際、プレートの衝突によって生まれたのではないかという仮説だ」


教授はカップを近づけて香りを楽しんでから口へ運び、再び続ける。


教授:「作戦に向かう車の中でも話したが、フォッサマグナだよ。

かつて海だった場所に静岡の大地が生まれ、隆起で山脈ができた。その時、逃げ遅れたメガロドンが閉ざされた海域に取り残された──という仮説だ。

奴らはそこで、独自の進化を遂げたのだろう」


山崎:「……ちょっと話はズレちゃうかもしれないんですが、あれはまだ、“メガロドン”と呼んでいいんですか?」


山崎の問いに、教授は楽しそうに目を細め、カップを机に置いて答える。


教授:「面白い視点だ。…山崎くん、華奢な君から見て、ボディービルダーは人間かい?」


山崎:「そりゃあ、もちろん」


教授:「では、盲目のボディービルダーも人間かい?」


山崎:「…不謹慎ですよ」


教授:「では、何万年もかけて進化した猿は、自分の事を"猿"だと呼ぶと思うかい?」


山崎:「!」


教授:「正確には、どこからどこまでが猿なのかなんて分からないだろう。

でも、結果として元の生態と違う進化をしたものを、元の名前で呼ぶ事はないんだよ」


稲垣:「まぁ、Switch2のこともファミコンて呼ぶじいさんばあさんはいるし、興味のない人間にとっちゃあ、“黒影”もメガロドン…下手したらサメでしかないだろうがな。

でもまぁ、俺らからしたら別けて研究するべき『別種』だな」


山崎:「では、“黒影科”ということになるんですか?」


教授:「“黒影”はあの個体に付けられた呼称だ。

囮ドローンが最後に送って来た映像。あれで複数の個体がいる事が確定した。

ならば種族としての名前を付けるべきだろう」


教授は揶揄(からか)うような笑みを浮かべて問う。


教授:「名付けてみるかい?」


軽い、冗談めいた教授の口調とは裏腹に、山崎は右手を口元に寄せて沈黙した。目だけが鋭く動いている。


山崎:「……地震がきっかけで出て来た、古代の鮫……(わに)……(わざわい)を連れて来る鰐……禍津鰐(まがつわに)なんてどうでしょうか」


いい目をして顔を上げる山崎に、教授と稲垣は視線を交わす。


稲垣:「思いの外…」


教授:「…そうだな。悪くない。

標準和名を禍津鰐。学術名はOtodus magatsuとでもいった所か。

箝口令(かんこうれい)が敷かれて論文を発表することは出来ないが、君への【夏休み中の課題】としよう」


山崎:「それって、大学で単位にも評価にも繋がらないやつじゃないですか!それに僕、夏休みは稲垣さんのとこの水族館でバイトするんですよ?」


稲垣:「やってみろよ。困ったら見てやる。

お前程近くで“黒影”を…いや、禍津鰐を観察した専門家はいないんだ。なら、お前がやるべきだな」


山崎:「専門家って、僕はただの学生ですよ。古生物じゃなく、海獣類(かいじゅうるい)専攻ですし」


教授:「残念だが、禍津鰐は先程『古生物ではない』と定義してしまったんだよ。古生物学の私ではなく、原生種の海獣類を扱う君の専門領域だ。

そして専門家ということで言うなら、種族名の名付け親であり、誰よりも近距離でデータを蓄積した君は、もはや『権威』と言ってもいいだろう」


教授が、自分の物と同じ型の新品のノートPCを机の上に取り出す。


教授:「禍津鰐や黄泉の国のデータは国家機密だ。

君の私用PCにデータを入れる訳にはいかない。

私達専門家に配られた物を、君の分も用意して貰った。

研究はこれで進めてくれ」


山崎:「……教授はどうするんですか?」


教授:「私には登呂遺跡のメガロドンの歯の年代解析や、知多くんや白井くん達が進めている黄泉の国のマップ化調査への協力。他の現場への口出しなど、仕事が山積みでね。

静岡を離れる訳にはいかないんだよ」


責任に潰されそうになる山崎に、稲垣が声をかける。


稲垣:「こんなこと言っているが、その為の政府公認のノートPCだ。

”他の現場”ってやつの一つが、俺と知多が夜にやってるオンライン会議だな。古生物の悩みはそこで相談しろ」


稲垣は、ツンデレな初老とそれを睨む少年を、楽しそうに眺めていた。




秋葉原旅1日目・中編。


こちらもお上りさんなのになぜか、やけに海外の方から声をかけられる機会がありました。

山手線では何駅目で降りたらいいかを聞かれて Copilot に確認してから教えたり、Google マップ片手に二組も道案内をしたり。

「ゴゥストレイッ。アッザファース スィグノォ、ターンライッ。オケッ?」

「ハヴァナイスデイ」

大学卒業以来映画でしか触れていない、口に出す機会もない日本人英語でしたが、意外と通じるものですね。


こちらも何も分からないのでアプリで調べて案内していたのですが、海外にいるアリアハンの兵士さんは

「すまほは あぷりを そうびするように!

 もってるだけでは だめですぞ!」

とは教えてくれないのでしょうか?

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