第23話 千曳の岩《ちびきのいわ》
1分間、“黒影”が出て来る事はなく、【高強度繊維による海底封鎖用エアバッグ】にも変化は無かった。
『それではこれよりヨモツヒラサカ作戦は、最終フェーズ──千曳の岩打設へ移行する』
議長の宣言が入り、海洋コンクリートによる封印が始まる。
白州の的確な指示を受け、知多がロボットアームを慎重に操作する。拡散防止用の高強度繊維製バルーンが取り付けられたホースの先端を、設置済みのエアバッグを覆うように誘導していく。
フェリー上の富士から打設開始の指示が飛ぶと、高圧ポンプが唸り、厚いホースが生き物のように震え出した。コンクリートが亀裂へ流れ込み、重みを増したバルーンがエアバッグをゆっくりと飲み込んでいく。
重さを増したホースの反動を、知多がアームの出力を調整して必死で抑え込み、響が知多の額の汗を拭いていた。
“黒影”が内側からこのエアバッグを突き破って出て来るかもしれない……。 そんな、呼吸すら憚られるような緊張感の中で、3時間にも及ぶ封印作戦が完了した。
機材を回収し、潜水艇が浮上すると、3隻は清水港へと帰港した。
全てのメンバーがフェリー内に集められる。
「皆、お疲れ様だった。
被害がなかった事が奇跡とも思える予想外のトラブルが続いたが、現場の判断で無事成功させる事が出来た。
…礼を述べ、祝うべきこの場でこんな事を言うのも野暮だとは思うのだが、大事な事なので先に言わせて貰う。
メガロドンが原生していた事。そして今回の“黒影”という個体に関しては箝口令が敷かれる。
あの規格外の怪物の情報は、周到な根回しや用意もなく流していい物ではない。
どんな形であれ必ず混乱は起き、民意が分かれる事になる。
最悪の場合、黄泉の国の封印が解かれ、全ての個体が現代の海へ解き放たれる」
会場がざわつく。
「だからこそ、不用意にこの情報を流すべきではない。
そして同時に、黄泉の国の調査と対策を進めていく必要がある。
これは既に情報を共有しているという以上に、ヨモツヒラサカ作戦完遂という今回の実績を買っての依頼だ。
既に幾人かには話をさせて貰っているが、詳細の共有やその他の交渉は、後日落ち着いてから連絡が行く。
大変な作戦の直後で申し訳ないが、よろしく頼む」
議長が頭を下げる。
「そして順番が前後して申し訳ないが、今回の尽力、政府を代表してお礼を申し上げる。
少し遅いが昼飯も用意した。作戦の重要性に比べて質素ではあると思うが、腹を満たしていってくれ」
会場のどこからともなくまばらに拍手が起こり、それはすぐに会場全体を包む盛大な拍手と歓声へと変わっていった。
立食形式の昼食中、山崎は複数の大人に絡まれていた。
作戦の気疲れもあり、人が途切れた所で端の椅子に腰掛け。周りを見渡すと、教授は琥珀色の液体の入ったグラスを片手に、議長や専門家達にタブレットを見せながら話していた。
他に目をやると、山崎を除く潜水艇メンバーが集まっている所を見かける。
そこに富士が寄っていき、白州の背中を叩いて嬉しそうに笑っていた。
この長い昼食は、気づけば2時間近く続いていた。
以前の後書きに書いた、iPad+マジックキーボードならマウスに手を移動させず、タッチパッドだけで完結している件、係長との雑談に出してみました。
会社のノートPCとの違いは、晩酌をしている事だと仮説を語ってみた所、『会社のルールを変えてくれたら俺もやる』と、前向き?な発言で、事実上の"凍結"を宣言されました。




