第21話 臨界距離
通常の山崎視点です。
潜航の座標を映していたタブレットが、今は知多の操作で囮ドローン”IZANAMI“のカメラ映像──響がヘッドセットで見ている景色が映し出されている。
知多がインカムのボタンを押す。
「…ソナーで……“黒影”が“IZANAMI”に反応した様子があったら……教えて下さい」
インカムを切ると議長から返答が来る。
『承知した』
知多が後ろを振り返る。
「…山崎くんは、“黒影”が目視できたら……“IZANAMI”との距離を言って下さい。
ヘッドセットをしている響くんには後ろが見えませんが……距離さえ分かれば、響くんなら“黒影”が見えます。
…白州さんは、“黒影”が亀裂に入ったら作戦を開始できるよう……連絡と誘導をお願いします。
僕は──」
『“黒影”に明らかな反応があった!囮に向かうぞ!』
「…僕は作業の準備に入ります」
知多が力強い声で言い切る。
“IZANAMI”視点のモニターを見ると、海面からの光をサメの形の巨大な影が遮っていた。
その影が横方向へ移動しながら徐々に形を変え、縦方向を向く形に近づいていく。
“IZANAMI”を追う為に下を向いているのだろう。
徐々に減速していた“IZANAMI”の視点が旋回を始める。
「今の距離感は分かってるっス。“黒影”までおよそ50、亀裂までは130メートルぐらいっス。
さっきまでの“黒影”の速度をイメージして逃げるっスけど、急速に近づかれてるようなら教えて欲しいっス。
噛むような姿勢を見せたら避けるんで、スグに言って欲しいっス」
「了解」
山崎は窓に張り付いたまま返事をする。
まだ窓からはどちらの姿も見えていない。
「こちら白州。富士さん。黒影は完全に囮を補足しました。
連絡したら直ぐにホースを投入出来るよう、準備をお願いします」
『こちら富士だ。白州、了解した。こちらはいつでも準備は出来ているぞ』
会議の時の穏やかな喋り方ではないが、作戦の内容上、富士の声は大声ではなかった。
「そろそろ窓から“IZANAMI”のライトが見えるはずっス」
響が言って少しすると、光が見え、さらに少し置いて“IZANAMI”が窓からの視野に入って来る。
距離だけでなく、窓の視野まで響には見えていた。
「”IZANAMI”が見えたよ!」
「スグに“黒影”も見えるはずっス。イメージだと差は12mぐらいのはずっスけど、食べられそうになってないっスか?」
響の言う通り、すぐに“黒影”も見える範囲に入って来る。
「数メートルではない…と思うよ。口もまだ広げてない」
「了解っス。亀裂まであと40メートルぐらい。距離感が分かるか、口を広げたら教えて欲しいっス」
白州がインカムスイッチを押す。
「こちら白州。“IZANAMI”、亀裂まであと40メートルを切りました」
『こちら富士だ。了解だ。いつでも行けるぞ」
“IZANAMI”と”黒影“の側面が少しずつ見えて来ると、その速度差も分かって来る。
だが、”黒影“があまりに大き過ぎる為縮尺が狂い、距離感が分からない。
「もう差が、黒影の1/4もないよ。………“黒影”が口を開けた!」
まだ身を隠す所もない所で、“黒影”が捕食の体制に入ってしまった。
それぞれの速度はメートル/秒の秒速で計算しています。
“IZANAMI”の秒速:4.63m/s
“黒影”の秒速:6.69m/s




