第19.5話 稲垣(SIDE-I)
SIDE-I = 稲垣視点です。
フェリーから海へ飛び込んで、泳いで小型艇にしがみ付く所からです。
普段主人公を俯瞰する視点(TPS視点)をイメージしている為心理描写を極力避けていますが、今回はFPS視点で、稲垣の心理も入れていきます。
教授が意図を察してくれたんだろう。
飛び込んですぐに小型艇が近くに寄って来た。
それに片腕をかけていると、フェリーから叫んでいる声が微かに聞こえる。
「稲垣さん、乗り込みました!」
(早ーよ。)
両手でしがみつきながら一人、苦笑いをする。
よじ登ろうとしていると、小型艇の無線から教授の声が流れる。
『こちらフェリーだ。山崎くん無事か?』
『大丈夫です。今、“黒影”が何かに反応して、上へ逸れました』
『そうか。稲垣くんが飛び込んだ音に反応したのかもしれないな。今、周囲に黒影は見えるかい』
(危ねーのは俺じゃねーか)
元々急いではいたが、慌ててよじ登る。
小型艇の上は“黒影”を麻痺させた時に浴びた波と水飛沫で水が溜まり、木片やゴミが浮いている。
(これが原因か)
電磁ノイズ発生装置の操作BOXに駆け寄ろうとすると、再び無線から山崎の声が聞こえる。
『こちらの視界には見えません。
教授、上の2隻の駆動とノイズを切る事は出来ますか?』
ソナーをチラリと見ると巨大な反応が下の方から上って来ながら、少しずつ真上に角度を変えているのが見える。
一度潜水艇を襲った後、遠回りして向きを変えて来て、今はここか電磁ノイズを目指しているんだろう。
一瞬躊躇するが、無線のマイクを手に取る。
「こちら小型艇だ。お前の合図でいつでも切るぞ』
『…フェリーだ。こちらも…いつでも可能だ』
議長が少し躊躇いを見せながらも応答している。
(竹鶴のオッサンも、さすがに躊躇うか。まあでも、狙われてる俺が了解したんじゃ、却下もしにくいか)
ソナーに映る“黒影”は、電磁ノイズ発生装置か小型艇か、そのどちらかを狙っているのは明らかだ。
エンジンはともかく、電磁ノイズを切ってしまえば防御を失う事になる。
『ソナーで”黒影“は見えますか?』
『…電磁ノイズ発生装置の直下に来ている』
『ノイズと動力を切って下さい。ドローンはノイズ最大で行きます』
「了解だ」
『承知した』
お守り程度のつもりで、電磁ノイズよりも先に小型艇のエンジンを切る。
続いて電磁ノイズも切ろうとすると、電磁ノイズの信号が消える。
(…喰われたな)
「切ったぞ!」
『フェリーも完了した』
『…“IZANAMI”、行きます』
(ガンダムのつもりかよ。確かにあのペンギンをセットしてた所、前に2本出ててホワイトベースのカタパルトに見えなくもないな)
苦笑いをしながら、積み込ませていた睡眠薬のセットされた水中銃を手に取る。
ソナーでは、一度電磁ノイズ発生装置のあった辺りで旋回していたが、再び上向きに移行する”黒影“の反応が映っている。
やけに色々な物が目に入る。
少しだけ歪んだスイッチボットのステー。
”黒影“を麻痺させた時の波で、地震後に防波堤付近に集まっていた木片が当たったんだろう。
最大ノイズにした直後は下げられたから、その後の波が木片を当てたんだろう。
逃げてる時の微調整ぐらいは出来ても、さっき最大まで一気に上げようとして滑ったか?
静かに目を閉じる。
(あいつ、ここで俺が死んだら罵るか?それとも素直に泣いてくれんのか?…ツンデレだからな。とりあえず、竹鶴のオッサンには理詰めで文句言うんだろうな)
少し微笑みながら、目を開けてソナーを確認し、ボートのヘリに腰をかけ、水面に水中銃を向ける。
視線はソナーに向け、タイミングを計る。
水中銃を持つ手に力が入る。
竹鶴とは、議長の事です。




