第20話 “IZANAMI”
張りつめていた空気の中に聞き慣れた声がインカムから聞こえ、山崎の表情が少し和らぐ。
知多が後ろを振り向き、響のヘッドセットを拾うのを見ながら、山崎はインカムのボタンを押す。
「大丈夫です。今、黒影が何かに反応して、逸れました」
『そうか。稲垣くんが飛び込んだ音に反応したのかもしれないな。今、周囲に黒影は見えるかい?』
努めて穏やかに話そうとしているが、珍しく焦りが隠し切れていない教授の声色を聞くに、ソナーで何かが見えているのかもしれない。
船外カメラのモニターを見てから、窓を覗こうとした時、ヘッドセットを響に手渡す知多と、知多の目を見つめる響が目に入る。
一瞬の硬直の後、響の目に光が戻った時、響の手はもう震えていなかった。
響がヘッドセットを受け取ると、知多が頷き、響は照れくさそうにはにかんだ。
白州が山崎と反対側の窓を覗き込んでいるのを見て、山崎も慌てて窓を覗き込む。
窓から顔を離すと白州は、黙って顔を横に振る。
「こちらの視界には見えません。
教授、上の2隻の駆動とノイズを切る事は出来ますか?」
『こちら小型艇だ。お前の合図でいつでも切るぞ』
フェリーにいたはずの稲垣が、小型艇に乗っているようだ。
先程の『飛び込んだ』というのはそういう事なのかと納得する。
『…フェリーだ。こちらも…いつでも可能だ』
議長からも通信が入る。
山崎は響の方を見る。
モニターになるヘッドセットを、少しズラしてこちらを見る響と目が合うと、頷き、親指を立てて見せてくる。
「ソナーで“黒影”は見えますか?」
山崎の問いから少しして、海自の担当官から返答が来る。
『…電磁ノイズ発生装置の直下に来ている』
「ノイズと動力を切って下さい。ドローンはノイズ最大で行きます」
『了解だ』
『承知した』
ソナーの情報を聞いて、窓からノイズ発生装置の灯りを見ながら通話していると、灯りを巨大な影が遮った直後、巨影を象る光が消える。
『切ったぞ!』
『フェリーも完了した』
「響くん!」
「了解っス!…“IZANAMI”、行きます」
ヘッドセットを完全に装着した響の操作で、潜水艇前方ロボットアームの下にある、サンプルバスケットにセットされていたペンギン型の囮ドローンが発進する。
それを確認した山崎は、最初からノイズ増幅装置のつまみをMAXまで回す。
ペンギン型ドローン、“IZANAMI”は上方へ上り、光が消えて今は姿が見えない“黒影”がいた辺りを目指す。




