第19話 テストバイト
再び山崎視点です。
遡る事数分前、潜水艦が待機位置へ到着し、4人が交代で体を伸ばしている。
『稲垣だ。最後に何か聞いておきたいことはあるか?』
稲垣からの通信に、山崎が疑問を投げかける。
「山崎です。ソナーでは、“黒影”到着のどれぐらい前に姿が映るんですか?」
『小型のソナーなら、“黒影”が11ノットで泳いで来るとして……深度100メートルの発生装置まで、数十秒から1分てところだな。
まだソナーには映っちゃいないが、通信はここまでにしとくか』
稲垣が通信を切ったのを確認し、山崎がインカムのボタンを押した瞬間、潜水艦の中の空気が凍りつく。
潜水艦が僅かに震えている。
(もう、手遅れのようです)
山崎は小声で伝えようとしようとしたが、言葉が出ない。
──ゴォォォォ………
巨体がゆっくりと潜水艦の横を掠める音に、船体が悲鳴をあげているような音が混じる。
ゆっくり、潜水艦の後方から覗き込むように、潜水艦の窓からは全てを捉えきれないほど大きな、無機質で光のない目が、潜水艦を覗くように通過していく。
真横から見た口のサイズだけで、恐らく山崎が横になっても足りないだろう。
今も横を通過している全長は、大きすぎて想像もつかなかった。
ぽすっ
響の震える手から、プロポがクッションの上に落ちる。
(……っ……)
声にならない声が漏れる。
気づかないよう願う潜水艦内4人の想い虚しく、“黒影”は反応を見せる。
“黒影”は速度を上げて通り過ぎる。
──ォォオ゙オ゙オ゙……
体中傷だらけの巨体が掠めるように通過し、左右に振られる尾びれは、振られるリズムが少しでも違えば船体を破壊していっただろう。
尾びれがカメラの前を掠めていった。
艦内の誰もが、悠久にも思える十数秒の間、言葉を発するどころか、呼吸すら忘れていた。
そんな中、最初に息をしたのは知多だった。知多が呼吸を吐き出すのを見て、自分が呼吸をするのを忘れていた3人も、怯えながら、音がしないように呼吸を始める。
その時暗闇から、潜水艦の明かりが巨大な口を映し出す。
この小型の潜水艦など噛み砕けるのではないかという程に口を大きく開け、“黒影”が迫って来た。
先ほどの凍り付くような恐怖ではなく、圧倒的な絶望が迫る。
なす術がない事をその場の誰もが理解し、時間が引き延ばされたようにゆっくりと最後の時が近付く。
目の見えない”黒影“相手だから点けていたライトだが、それが4人に絶望の光景を見せていた。
──ゴォォォォ…ォ゙ォ゙ォ゙……
4人が死を覚悟した時、“黒影”は何かに反応し、潜水艦を掠めて上方へ逸れて行った。
再び止まっていた呼吸。4人が、音を消す事も忘れて荒く吐き出す。
パニックになりかけていた自分を山崎が自覚した時、教授の言った「基本を思い返すようにしなさい」という言葉を思い出す。
「……そうか」
脈打つ自らの心音を聞きながらも、冷静さを取り戻し、何かに気づいて口を開いた山崎。それと同時に、自分がインカムのスイッチを握りつづけていた事にも気づく。
ボタンから手を離し、目に写った床に転がるプロポを拾い、響へと渡す。
しかし、震えたまま固まった響の手は、本人の意思とは別にプロポを握る事が出来ない。
山崎が、プロポを持たない左手で響の手を外側から軽く支え、プロポを握るよう誘導すると、響はプロポを両手で支える。
だが、震えは収まらなかった。
『こちらフェリーだ。山崎くん、無事か?』
インカムから教授の声が聞こえた。
iPad Air用にはマウスを買わなかったおかげで、マジックキーボードのタッチパッドだけを使う事にもだいぶ慣れて来ました。
ですが会社のWindowsPCでは無意識にマウスを握ってしまうの、なぜなんでしょうか。
会社のPCとiPadの違い……晩酌…
…もう少しiPadでの精進が必要なようです。




