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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト
第1章 深層の目覚め

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第18話 最後の通信(SIDE-T)

SIDE-T = 鳥居教授側の視点です。

今はフェリーの操舵室で、電磁ノイズ発生装置のモニターや遠隔操作装置の前に居る、稲垣の後方にいます。

フェリーは左舷を由比側へ向けて停船していた。

右舷側、海面の遥か下方には亀裂の入った海溝がある。


フェリーから離れた右側では、遠隔操縦の小型艇が低速でこちらへ向かっていた。

“黒影”到着推定時刻に、亀裂より手前で停泊する予定だ。

小型艇にはソナーが搭載されている。


潜水艦は深度200メートル、亀裂の見える海溝の肩で待機する予定。フェリーと潜水艦、その中間──深度100メートルには有線のノイズ発生装置が降ろされ、ノイズと振動と音を発している。

装置には灯りも搭載されており、光の届かない暗闇にいる潜水艦から、電磁ノイズへ寄ってくる“黒影”を響が目視できるようになっていた。


教授は作戦概要、電磁ノイズのモニター、ソナー、海底図、配置図──それらの情報から位置関係を頭の中で重ねていた。


教授がいるのはフェリーの操舵室。

電磁ノイズ発生装置の遠隔操作装置の前で待機する稲垣の後方から、周囲を観察している。


作戦が順調なら教授の出番はない。

だが、教授は観察と考察をやめなかった。


視界の端に何度も入る水中銃。

稲垣が用意させたもので、“黒影”にとっても致死量となる程の睡眠薬が詰まっているらしい。

人の乗らない小型艇にも同じものが積まれているという。


次に教授の目に入るのは電磁ノイズのモニター──正確には、その映像を映したフェリー側のモニターだ。


電磁ノイズ発生装置は有線接続のため、スイッチボットとカメラをステーで小型艇に取り付け、こちらでモニターしながら遠隔操作できるように昨夜、無理矢理改造している。

映し出される小型艇側のモニターには水滴が付いていた。

“黒影”が暴れた際、近くにいた小型艇が大きな波と水飛沫を浴びたからだ。

幸い、モニターも電磁ノイズ発生装置も問題なく動いている。


その時、知多からの連絡が操舵室に響いた。


『C班…待機位置に到着しました。…海流、問題なし。これよりモーターをオフし…潜伏に入ります』


議長が通信端末を手に取り返答する。


「承知した。黒影が到着すると予測される最短時刻まで、残り二分十秒ほどだ。一度体を伸ばしておいてくれ」


『…承知しました』


稲垣が続ける。


「稲垣だ。最後に何か聞いておきたいことはあるか?」


『山崎です。ソナーでは、“黒影”到着のどれぐらい前に姿が映るんですか?』


「小型艇のソナーなら、“黒影”が11ノットで泳いで来るとして……深度100メートルの発生装置まで、数十秒から1分ってところだな。

まだソナーには映っちゃいないが、通信はここまでにしとくか」


稲垣が通信を切った次の瞬間──

潜水艦側がインカムのボタンを押した音だけが聞こえた。

しかし、応答がない。

稲垣が眉をひそめる。


「山崎? どうした」


『……も…ぅ……手…お…れ…のよ……です……』


押し殺した呼気が断片的に無線へ流れ込む。

言葉にはなっていない。だが、何かを伝えようとしているのは分かった。


教授が顔を上げる。


「……山崎君?」


次の瞬間だった。


無線の向こうで、低く、重く、海そのものが唸るような音が響いた。


『──ゴォォォォ………』


低周波に、金属の軋みのような音が混ざる。

フェリーのスピーカーが震え、室内の空気が揺れた。


議長が息を呑む。


「……何だこの音は……?」


『……っ……』


通信から、“声にならない呼気”だけが漏れた。


潜水艦側の無線はまだ開いたまま。

しかし、山崎の声はもう聞こえない。


『──ォォオ゙オ゙オ゙……』


ただ、巨大な何かが潜水艦の外を滑る音だけが、 遠ざかっていった。



「クソッ!突貫工事のツケってやつか!」


誰もが言葉を失う中、稲垣が大声を上げながら電磁ノイズの遠隔操作装置を叩いた。


ノイズは最大まで回してあるが、モニターに映る波長に変化がない。

深度100メートルの発生装置に対し、“黒影”がいるのはおそらく潜水艦と同じ200メートル。

麻痺はさせられなくとも注意を引くために最大にしたが、操作が効かなかったのだろう。


稲垣は一度目を閉じ深く息を吐くと、白衣と靴を脱ぎ捨て、右舷側へ走り出した。

教授もその意図を察し、稲垣のいた位置へ移動して無線装置を手に取る。


「教授!後は頼んだ!」


白衣の下のウェットスーツ姿になった稲垣は、叫ぶと同時にフェリーの柵を乗り越え、海へと飛び込んだ。


周囲から悲鳴にも似た声が響く。

建物の二階以上はある高さから、“黒影”が直下にいる海へ飛び込んだのだ。

当然の反応だった。


周囲がどよめく中、教授が声を張る。


「小型艇を稲垣くんの近くに寄せてくれ!乗り込んで直接電磁ノイズを操作するつもりだ!」


操縦担当者が「了解しました!」と返し、操作を始める。


『──ゴォォォォ……ォ゙ォ゙ォ゙……』


その時、ソナーを注視していた政府関係者が声を上げた。


「今、ソナーに巨影が映りました!海溝の上です!」


教授の近くでそれを聞いた海自の担当官が、ぶつぶつと独り言を始める。


「……“黒影”は海底を這うように来たのか……。海底の反射に紛れたか……どのみち海溝付近では反射が乱れる……直上の電磁ノイズがソナーを乱すこともあるか……」


ソナーに映らなかった理由の考察をしているようだった。


「稲垣さん、乗り込みました!」


甲板から大声が響く。


その時、押されたままになっていた潜水艦側のインカムが、いつの間にか切られている事に気付く。

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