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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト


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20/23

15話 出航

山崎は、教授から電磁ノイズの操作について教わった。


「生き物は皆、微弱な電気を発している。

サメはロレンチーニ器官でそれを感じ取り、弱った獲物を探す。


今回のドローンは、モーターのノイズを増幅して“弱ったエサ”を装う仕組みだ。

ただし、ノイズ単体を自在に出せるわけではない。

響くんの操作の緩急に合わせて、どうしてもノイズも変動してしまう。


だから最初は、増幅は使わず、響くんの操作だけで様子を見る。

“黒影”がどう反応するかを確かめてから、段階的に強めていくんだ。


作戦資料にも載せてあるし、海洋学部で海獣類について専攻している君には釈迦に説法だったかもしれない。


だが、緊張は知らず知らずの内に判断を雑にする。

作戦前で自分が興奮状態である事を意識して、一度深呼吸そして、基本を思い返すようにしなさい」


山崎の立候補によりフェリーに乗ることになった教授と別れ、潜水艦の方へ向かうと、充電を終えたドローンを潜水艦にセットしたり、細かな機材を載せ終える所だった。


「ちょうどみんな揃ったっスね」


響が、今到着した山崎に気づく。

乗組員が揃った事を確認した白州が、口を開く。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。富士さんからの紹介で乗艦させていただく事になりました、白州と申します。先ほどは響さんのドローン操作に見惚れてタイミングを逸してしまいました。よろしくお願いいたします」


白州が深々と頭を下げる。知多はどう反応していいのか、響の方を伺う。


「そんな畏まらなくていいっスよ。俺と山崎くんは年下ですし、知多さんだって多分白州さんと同じぐらいっスよ?この小さい潜水艦に乗って4人で“黒影”の傍までいくんスから、もっと仲間だと思って欲しいっス。

そもそも、ドローンのシェイクダウンの時に来たんなら、声かけるタイミングなくて当然だったっスよ。お陰で集中して動きを掴めたんで、ナイス判断だったっス」


響は満面の笑みで手を突き出し、親指を立てて見せる。


「自分、こういうのは慣れないのですが…善処します」


白州がぎこちなく親指を立てる。


山崎は、知多程ではないにしろ話すのが得意ではない。相手が初対面の堅い人なら尚更だ。響がいなければ、知多とも打ち解けられているか分からない。このチームに響がいる事のありがたみを噛み締めていた。

知多の表情を見るに、同じ事を考えているのだろう。


チームの結束は響に掛かっている──

それが山崎と知多に加え、潜水艦の点検等の作業で近くにいた人間、全員の共通認識となった。


「あらためて紹介するっス。俺は響。今回ドローンを操作して“黒影”を黄泉の国に誘導するのが役目っス。

こちらが知多さん。潜水艦の操縦と、白州さんの指示で潜水艦のアームで工事をやってくれるっス」


知多がペコリとお辞儀をする。


「こちらが山崎くん。ドローンの電磁ノイズを調節して、“黒影”を誘惑してくれる、海洋学部のエースっス」


山崎は身振りで否定するが、


「でも、山崎くんが大声で立候補した時教授が俺の横にいて、うちのNo.1なんだって、よろしく頼まれたっスよ?」


その時点で響の近くにいたのなら、山崎が立候補するのは教授にとって既定路線だったのかもしれない。

もちろん、自分と同じ潜水艦に乗る2人に声をかけるつもりだった可能性もあるが。

稲垣が言っていた“たぬき親父というのは、こういう事を示しているのかもしれない。


「ともかく、山崎くんがノイズの調整、白州さんが知多さんに工事の指示──そんな感じっスね。

昨日の議事録で、富士さんが白州さんを推薦する理由に、若いのに勤勉で優秀だって書いてあったっスよ?トラブルがあっても任せられるって思われてなければ今回選ばれないでしょうし、信頼されてるんスね」


分かりづらいが、白州が少し照れた様子を見せる。


「そんな。自分はまだまだ富士さんに叱られてばかりの半人前です。褒められるのも、”真面目“って所だけなので」


堅物に見えた白州を既に掴みかけている響に、周りが感心する。


「それを富士さんは、“誠実”だって思ってるんじゃないんスかね?

真面目に頑張った結果っス。真面目なだけで世界の行く末は任せられないっスよ。

そこは誇っておけばいいっスよ」


「…はい」


白州が笑顔で答える。

腕時計を確認した知多が口を開く。


「…そろそろ、潜水艦に乗って準備をしましょう。

…白州さん…よろしくお願いします」


知多が服の裾で右手を拭って、握手をするように差し出す。

白州も、笑顔で手を握った。


「こちらこそ、よろしくお願いします」



狭い潜水艦に全員が乗り込んだ所で、知多が解説を始める。

白州の雰囲気が和らいだお陰か、技術の説明をする知多は、やはり少し早口になる。


「……通信だけ確認します。

水中の潜水艦から水上のフェリーへは電波が使えないので、音響通信です。

“黒影”の感覚が過敏らしいので、ソナーが“黒影”を探知したと連絡が来た後は、“黒影”が亀裂に入るまでは切ってください。


通話はこのインカムです。押している間だけ送信。小声で構いません。

潜水艦の振動を拾われる可能性があるので、大声は禁止です。


……潜航後に通信テストをします。では、出航します」




ディーゼルエンジンが始動し、プロペラが海を攪拌する音が聞こえ、潜水艦が海上を滑り始める。


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