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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト


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第13.5話 【閑話】移動②

閑話なので飛ばしても読めます。


第2.5話 【閑話】移動①で山崎が説明しているAIへの指示をGeminiのモデルをProにして入力して頂くと、話で出て来る伝承分布図とほぼ同じ物を作っていただけます。

※Proのようなスペックの高いモードのAIでないと、裏側で沢山の検索をしながら、図に正確にプロットという作業は難しいようです。

朝、山崎を乗せた政府の車は、次に鳥井教授を助手席に拾った。

山崎が座る後部座席には、右隣に白井が乗っていた。


走り出すやいなや、鳥居教授は取り出したタブレットを起動し、後部座席の白井へと振り返る。


「白井君。昨日、山崎くんに教わってね……ちょっと面白いものを作ってみたんだ」


白井は顔を上げる。

教授は体を後方へ捻ると、左手でタブレットを後部座席へ向けた。

そこには、日本列島に無数の赤い点が散らばるシンプルな地図が表示されていた。


「メガロドンの歯が天狗の爪として祀られていたという話がある。

それを聞いて昔、日本地図の天狗の伝承がある地にシールを貼って、分布図を作った事があるんだ。

昨日会議に向かう車の中でそんな話をしたら、AIならすぐに作ってくれると言われてね。やり方を教えながら作ってくれたやつを、自分でも少し整えてみたんだ」


理解してくれそうな人物に成果物を披露する教授は、珍しく少年のように目を輝かせていた。


白井はタブレットを受け取って膝に載せ、右手でメガネを上げる。


「……天狗伝承の分布図、ですか」


白井はタブレットを指で拡大しながら、赤い点が“駿河湾を北上するプレート境界”に沿って密集していることに気づく。


「……まるで、フォッサマグナの隆起帯をなぞっているようですね」


教授は静かに頷いた。


「天狗というのは、中国由来の観念が日本の山岳信仰や修験道と混ざって形成された存在だ。山地に伝承が多いのは、それ自体としては自然な分布と言える」


そこで一拍置き、声を少し落とす。


「ただ──“メガロドン”・“フォッサマグナ“という概念をこの分布に重ねると、新しい見方が出来ると思わないか」


白井はしばらく黙り込み、タブレットの一点を見つめたまま、ぽつりと呟く。


「……教授。メガロドンは、1500万年前には既に生息していたのですか?」


教授は即答した。


「いた。むしろ最盛期だ。日本近海からも多数の化石が報告されている」


白井は息を呑む。


「……だとすると、“かつて海だった場所の隆起”と“天狗伝承の分布”が部分的に重なるのは……完全な偶然と断じるのも、少し躊躇われますね」


教授は、慎重に言葉を選ぶように続けた。


「誤解しないで欲しいが、天狗の大部分は、あくまで山岳信仰や修験道の文脈で理解すべきだろう。

ただ、その中にごく一部、“海だった時代の記憶”が紛れ込んでいる可能性はある。

例えば先ほども言ったが、先に“爪”──つまりメガロドンの歯の方が存在していて、後から天狗という像がそこに貼り付けられた、という例は江戸時代から記録されている」


白井は小さく息を吐いた。


「火のないところに煙は立たない、というやつですね。

全てを結びつけるのは乱暴だとしても、“何か”があった痕跡としては、十分に興味深い」


教授は静かに頷いた。


「そうだね。“全てメガロドン起因”と主張するつもりはない。

ただ、太古に海だった場所に東西の陸がぶつかり、隆起して山脈となった。その帯に天狗伝承が密集している。

そして、その近傍に“黄泉の国”のような閉鎖海域が存在している──この重なり全てを偶然だと断ずるべきではないと、私は思う。


さらに偶然にも昨日、会議に招集される前に私と山崎くんは、地震で隆起した地層からメガロドンらしき歯が出たとの知らせを受けて登呂遺跡へと行っていたんだ。そして静岡の街中にも1つ、赤い点が打たれている」


車内に沈黙が落ちた。

エンジン音だけが、遠くで響いている。


「……教授。山の神ともされる妖怪が、フォッサマグナの時代から現代へ出て来たのですね」


教授は静かに目を閉じた。


「僕や白井くんからしたら興味の尽きない存在や空間ではあるが、現代の海に解き放っていい相手ではない。

だからこそ、今日の作戦がある。

古代のミステリーを駆逐の対象にさせないよう、必ず成功させよう」


教授は再度振り返って左手を差し出し、対角線に座る白井と握手する。

握手が終わった白井は、隣で人見知りを発動している山崎に優しく話しかける。


「この作戦が終わったら、私にもAIの使い方を教えて下さい」


会議室で感じていた気難しい人という空気は、今は幾分和らいでいた。


3人を乗せた政府車両は、フェリーの待つ清水港へ向けて静かに速度を上げていった。


本州の中心部に広がる「フォッサマグナ」は、東日本と西日本で地質が大きく異なる“境界帯”のことです。一本の割れ目というより、かつて海だった場所に堆積物が厚く積もり、その後の地殻変動で隆起した地帯をイメージして下さい。


約1500万年前から現在にかけて、フィリピン海プレートが北へ押し上げられ、伊豆・小笠原の島々を乗せた島弧が本州に衝突し続けたことで、この古い海域は持ち上げられ、現在の山地や火山帯が形成されました。


つまり、本州の中心部には「かつて海だった地帯が隆起してできた地域」があり、本作の舞台、“駿河湾”の北側に位置するその場所こそが、東日本と西日本の地質がぶつかるフォッサマグナです。


登場するのはまだ先の話ですが、黄泉の国の構造やMAPも、駿河湾の海底図やプレートの衝突を意識して、不自然にならないよう作り込んでいます。

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