第11話 ドローンの改造
知多・響・山崎の3人は、議長の女性秘書に連れられ、お辞儀をして会議室を後にする。
廊下には先ほど退出した男性秘書が電話をしており、退出したメンバーに気づくと、通話しながら会釈をして来る。3人は会釈を返すと、女性秘書に続いて先ほどとは別の会議室に入る。
「知多様の道具と、追加で依頼された物はこちらに運び込んであります。また、もしも何かご用があればもう1人の秘書が対応致しますので、こちらまでご連絡下さい」
役割が分かれているのだろう。女性秘書は丁寧な姿勢で、知多に男性秘書の名刺を差し出す。知多が受け取ると、「失礼します」とお辞儀をして会議室を後にした。
その時、開いた扉の隙間から、作業服姿の大柄な影が横切るのが見えた。
富士だった。
スマホを操作しながら階段の方へ歩いていた。
女性秘書が出て扉が閉まると、一瞬の沈黙が訪れる。
すると階段の方から、廊下に響くほどの大きな声がし始める。
内容までは聞こえないが、先ほど通った富士だろう。
“部下への指示を全力で飛ばしている”ことだけは分かった。
ドローン競技者の響が、扉の向こうの出来事に少し困惑している山崎の方を向き、口を開く。
「山崎くんですよね? 改めて、響です。よろしくお願いします」
響がニカっと笑顔を見せながら言った。
山崎は少し戸惑いながら挨拶を返す。
「…山崎です。よろしくお願いします」
その様子を見て、響が少し困ったように返す。
「緊張してるっスか? 俺も向こうの会議室に入った時、手汗ヤバかったんで大丈夫っスよ。この3人なら、山崎くんもそんな構えなくて平気っス。俺も知多さんと同じオタクですし、ただ、知多さんよりちょっとだけ周りと合わせるのが得意ってだけっス。山崎くんは年も近そうですし、気軽に来て欲しいっス」
満面の笑みで言う響を見て、山崎は少し安心出来る空気を感じ取る。
(ただの陽キャじゃないのかもしれない)
「あと、あの白井って人も、なんか仲良くなれそうな気がするんスよね」
会議室の中でも、特にとっつきにくそうな白井を相手にそう言う響に山崎が
(やっぱりただの陽キャかもしれない…)
少し考えを改めようとした時、知多が話に加わる。
「…響くんが話しやすいのは本当ですよ。こんな僕でも仲良くして貰っていますし、響くんがいると、自然と周りも仲良くなるんですよ。…オタクに優しい陽キャじゃなく、本人がオタクですし」
知多が、先ほどまでと違って穏やかで、比較的スムーズな話し方になっていた。それを見た山崎は、意を決して手を前に出す。
「響さん、改めてよろしくお願いします」
響は握手を返しながら微笑む。
「“くん”でいいっスよ。よろしくっス」
「…じゃあ、2人が仲良くなった所で、ドローンの改造方針を…話します」
知多がホワイトボードに「改造方針」と書き出す。響と山崎はホワイトボードの近くに椅子を持って行き、着席する。
知多はホワイトボードに文字を書き込みながら、言葉を区切るようにゆっくりと説明を始めた。
「…まずは電磁ノイズ。これは会議で言った通り…元からの物を増幅させる方向で行きます…これは自分が…なんとかします…」
ホワイトボードに書きながら、ゆっくり進む。先ほどまでのAI書記の偉大さを、3人が実感した。
「…次に、スピードなんですが…」
知多がホワイトボードに書き込む間に、響が山崎に耳打ちする。
「知多さんが今日会った人の前でこんなにスムーズに話すなんて、山崎くん、会議で相当知多さんに認められたんスね」
山崎はどう返すか迷ったが、困惑以上に嬉しさが勝った。
「…山崎くんが言ってくれた電圧アップで…10%ぐらいの速度アップが出来そうです」
響が不満を口にする。
「相手は13ノットっスよ? 10%じゃあ、10ノットにもならないじゃないっスか。短期決戦なら、無理させてでも11ノットは行って欲しいっス」
「…もう既に限界をとっくにオーバーしているんですよ? そんなに上げたら壊れちゃいます…」
「壊れるギリギリぐらいでいいっス。そこは俺がなんとかするんで。黄泉の国に残る“イザナミ”なんで、そこまで保てばいいっス」
知多が少し考え込む。
「…響くんがそこまで言うなんて…」
知多が山崎のほうを向く。
「…響くんは学生時代から、お小遣いやバイト代でドローンのレースに参加していたんですよ。お金がないから、ドローンを凄く大事にしてて…」
「知多さん! そうゆうのいいっス! それよりドローンの改造の話進めましょう。山崎くんもさっきみたいなアイディア、なんかないっスか?」
山崎は少し考え、教授の言葉を思い出す。
「…サメ肌とか表面に貼れないですか?」
知多が口元に手を当てて、考えながら返す。
「…抵抗を下げる…ですか…なくはないですが、さすがに本物のサメ肌は……代替品でやってみましょう」
「さっきの教授さんの話っスね? 黒影が筋力と鮫肌の密度で速度アップして来て、こっちも電圧と鮫肌で対抗するなんて、熱いっスね」
「…かなり無茶をすれば11ノット…いけなくないかもしれません…でも、速度差も負荷の管理も、完全に響くん頼りですよ?」
知多がそう言うと、響は軽く笑い、拳を前に突き出した。
「ここまで熱い展開にしてくれたら、俺が頑張るしかないっスね」
知多は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに静かに拳を合わせた。“コツン”と小さな音が会議室に響く。
その音に誘われるように、響が山崎の方へ拳を向ける。
「熱いアイディア出してくれた山崎くんも、もちろんやるっス」
山崎は一瞬戸惑ったが、胸の奥が熱くなるのを感じながら拳を突き出した。響の拳と軽く触れ合うと、無言で知多も、そっと拳を差し出してくる。
山崎は思わず笑みをこぼし、知多の拳にもそっと合わせた。
“コツン、コツン”
静かな会議室に、3人の決意だけが確かに響いた。
グータッチを終えると、響が知多に切り出す。
「水中の事は詳しくないんスけど、音で操作するドローンて、俺も潜水艦に乗った方がいいっスよね?」
知多は俯いて、暗いトーンで返す。
「…言ってなくて……ごめん。海溝の近くだから音が反響しやすくて…船の上からは多分…無理……
時間があれば…少し離れた場所から操作も出来る物も作れるんだけど……
メガロドンのいる海に…君を連れて──」
響が知多の言葉を待たず、制止するように言う。
「ああ、そうゆうのいいっス。俺、元々乗るつもりだったんで。
そもそも知多さんが知らない潜水士さんと2人きりなんて、まともに仕事出来る訳ないじゃないっスか。
知多さんが覚悟決めたんなら、俺も付いて行くっスよ」
響が拳を突き出して親指を立てると、知多の目に涙が浮かぶ。
知多はハッとしたように腕の裏側でゴシゴシと涙を拭い、すぐにメモを書き始める。
「…必ず最高のドローンを作ります。
改造の目処は立ったので、山崎くんはこのメモの物を購入して欲しいと、さっきの秘書さんに伝えて向こうに戻って下さい。…きっと、向こうのみんなも、山崎くんを必要としています」




