第玖話 闇を越えて光へ
【前回のあらすじ】
話し合いが決裂し戦闘になってしまった七聖天らと闇族。激しい戦闘の末、闇族は魔素を消失させる。それはリンも空を飛べなくなることを意味していた──……
【登場人物】
リクエール・レイナ・フェルサ:
本作の主人公で七聖天の1人。「レイナ」や「リン」と呼ばれる。
ケント:
リンの友人でバーニシア王国聖騎士の剣士である青年。
オルリア:
幼い少女の容姿をした明るい性格の七聖天団長。
スリエラ:
七聖天の1人でお嬢様言葉を話す女性。
チャム:
七聖天の1人。酒飲みチャラ男エルフ。
クンペル:
七聖天の1人。常に無表情で必要最低限の言動しかしない。
キージュ・オブスクリタス:
オブスクリタス王国の女王。11年前の事件に思うところがある様子。
ツェニアン・オブスクリタス:
オブスクリタス王国の第一王女兼衛兵隊長。直情的で国を滅ぼしかけたバーニシア王国を恨んでいる。
ミークリア・オブスクリタス:
オブスクリタス王国の第二王女。当時生まれたばかりであったため11年前の事件についてあまり知らない。
ルイス:
闇族ではないのにオブスクリタス王室に仕える侍従長の女性。
◇ ◇ ◇ Side Kent ◇ ◇ ◇
「リン……!!」
魔素が無ければリンは空を飛べない。バランスを崩したリンがゆっくり落ちていくような錯覚がする。
リンの真下に足場はない。
このまま落ちれば何十メートルも下の地面まで真っ逆さまだ……!
「くそっ!」
「ちょっ、ケント!?」
オルリアの驚いた声を背に俺は駆け出した。
いつもなら〈瞬速〉の魔力で1秒もかからない距離。今だけはずっと遠く感じる。
リンが崩れた床の縁に手を伸ばそうとして、しかしそれを掴めずに消えていく。
その後を追って俺も迷わず飛び降りた。
「リン! 掴まれ!」
麻痺で肩しか動かない右腕を差し出してありったけ叫んだ。
地面が遠い。
このまま落ちれば流石のリンでも無事では済まないはずだ。もちろん俺も。
「無茶しすぎ……!」
「無茶じゃねえよ!」
リンはなんとか俺の手を掴んだはずだ。なのに俺にはその感触がない。感覚もすっかり麻痺ってるな……!
左手に握った剣を城の壁に突き立てる。
剣が壁を削って切り裂いた。左腕までイカれそうだ。そしたらいよいよもう終わりだな。
でも少しずつ減速してきてる……!
両足でさらに減速をかけるとどうにか止まってくれた。
「はぁ、はぁ、危なかった……」
「助かったけど、普通ノータイムで飛び降りる?」
「守るって約束したからな」
俺の一言でリンの銀色の瞳が見開かれた。
珍しい顔。
少しの優越感を感じるのは秘密だ。
「あそこの塔に向かって振り子の要領で投げれば戻れそうか?」
「……そうだね、お願い」
言われた通り腕をブンブン振ると、リンは自分でタイミングを計って綺麗に目標の塔まで飛んでいった。
そこを足場にみんながいる屋上へ戻って行く。
「さて、俺はこれからどうしようか」
右腕はいつまで経っても自由に使えないし、流石に片手で上まで戻るのはムリだ。
とはいえ、いい感じの足場も見当たらない。
まいったな。
「仲間のために迷わず飛び降りる──……カッコイイじゃない」
「っ……!?」
やっべぇ、終わった……。
足場の無いこの場所で一体どうやって立ってるんだよ、侍従長。
◇ ◇ ◇ Side Lequel ◇ ◇ ◇
「ただいま」
「うわっ、帰ってきた!?」
「生きてたかシュヨさん♪」
「なに、悪い?」
正直ウチも不味いとは思ったけども。
まさか魔素を消せる能力が存在するなんてね。流石にびっくりしたし、油断もしてた。
思い返せばウチは宰相に足場の無い所まで誘導されてたんだ。
「悪く思わないで。魔素ありきであなた達に勝つことは難しい。けれどもこれでお互いに魔素を用いた能力は封じられたわ」
「じゃ、魔術師は下がってま~す」
魔法と魔力しか使えないのだろう。フォルネアがそそくさと後退する。
ここからは純粋な身体能力と異能だけが頼りってワケだ。
異能戦なんて面倒なことを……。
確かに異能は強いよ。
魔素もいらないし、魔力よりよっぽど強力な力になり得る。
でもその分消耗が激しいのが難点だ。
「リアはまだまだイケるわよ!」
「魔素を封じればワタクシ達に勝てるなど傲慢であると思い知らせて差し上げますわ!」
「自分も問題ない」
「オレはさっきどデカイのブッ放したからあと数発ってトコだなァ♪」
「馬鹿じゃん」
本当に馬鹿じゃん。
まぁ、向こうも宰相が限界みたいだし、魔術師のフォルネアも戦線離脱した。
おあいこか。
「5人のうち2人は補助系の異能。1人は未知数だけれど攻撃系のうちの1人はもうあまり持たないはずよ。私とツェンだけで大丈夫だから、ニゲルは下がって」
「しかし……」
どーも、未知数でーす。
別に異能なんか持っていようがいまいが使わないけどね。めんどくさいもん。
だからと言って異能でボコボコにされたいわけでもない。
幸運にもグングニルは下に落ちずにその辺に突き刺さっていた。
魔素がない現状じゃデカすぎて扱いずらいんだけど、素手よりマシだと思うことにしよう。
引き抜いて女王キージュ達に向き直る。
「それは戦略的撤退っていうより、舐められてるって考えた方が良い?」
「軍事大国バーニシアを? そこまで無謀に見えたかしら」
「違うなら良いの」
油断してるワケじゃないならそれで良い。
面倒な手心を加える手間が省ける。
キージュとの距離は目算で大体10メートルくらいかな。その距離を一足飛びに詰める。
「ッ……!?」
グングニルを両手でしっかり握りしめ、思い切り振りかぶる。即座にキージュが防御のために闇を展開したのが見えた。
行動の素早さはお見事。
でも、防御が薄い。
今この瞬間、グングニルは槍じゃない。
バットだ。
「かはっ……!!」
闇の防御をぶち破り、キージュは城の彼方へと吹っ飛んでいった。
ちょっとミシッって音がした気がするけど大丈夫かな。
「姉様……!」「陛下ッ……!」
異能であれだけ色々できるならこの高さから落ちてもきっと大丈夫。
異能戦とは消耗戦だ。
相手をいち早く消耗させた方が勝つ。面倒な戦い方だけど仕方ない。
そっちも落としてきたんだからお互い様だよね。
「許さない……『黒蝶群』!」
またあの蝶……!
視界いっぱいの蝶の大群が押し寄せてくる。前はスリエラの〈神炎〉で乗り切ったけどアレは魔力だし……。
チャムに吹っ飛ばしてもらうか、クンペルにテレポートしてもらう? クンペルなら上手くやってくれそう。
……って、スリエラ?
「この程度で怯むとお思いでして!? 『悪魔の目』!」
おお……蝶が吹っ飛んだ……。
そっちに目線を奪われてる隙にクンペルの異能でツェンの背後にテレポートした団長が攻撃を仕掛ける。
近接同士の激戦を横目にウチらには雨のような攻撃が飛んできた。
もうキージュが戻ってきてる……!
空中に浮かぶ彼女の鋭い漆黒の目と視線がかち合った。
「はぁっ、うぐっ、どこにそんな怪力があるのよあなた……『黑色火薬』!!」
「しまっ……!」
──ドカンッ!!
「っ、てェェ……」
「ちょっと、巻き込まないでくださいます?」
「今のは無理でしょ」
気付かないうちに闇が1カ所に集中してて、それがウチらのすぐ後ろで爆発する──なんて誰が予想するのさ。
しかも爆発後の煙幕がやたらと濃い気がする。
これも闇属性の影響?
「っ……!? なに……?」
「いっっったァ!? ンだコレ!?」
「っ……この内側から刺すような痛みはなんですの……!?」
チャムとスリエラも同じ状態か。
体の内側から剣山で刺されたような痛み。さっき爆発喰らっただけでも痛いのにまだ何かあるの!?
急に痛み出した体。
でもあっちでツェニアン王女と戦ってる団長は平気そう。ということはあの爆発が原因?
「警告。団長、5秒以内に左前方へ退避することを推奨する」
「えっ!?」
「気付いたみたいね! でももう遅いわ!」
ツェニアンが勝ち誇ったようにそう言ってその場から少し離れた。団長もそれを追いかける。
それから数秒で爆風の影響か2人がいたあたりに煙が流れていった。
「『転送』」
「おわっ!」
「痛覚の減少を確認。煙の吸引が要因である可能性を確認」
「あら、本当ですわね。まだ痺れているようで気分が悪いですけれど」
「つーかクンペルはなんでヘーキなカオしてんだ♪」
煙を吸い込むと不味いってことか。
さっさと風に流されると思っていた黒い煙はまだ残っている。
さらに悪いことにウチらの背後でツェニアンがまた蝶の大群を生み出している。挟まれちゃった。
前も真っ黒、後ろも真っ黒。一寸先は闇ってか。
冗談言ってる場合じゃない。本当にどうしようこの状況。
「キージュお姉さま~! ツェンお姉さま~! だいじょうぶ~!?」
「ミークリア様ッ!! いけません!」
「「「「!?」」」」
子供の声……!?
てか、さっき会ったミークリア!? 自分の部屋に戻ったはずじゃなかったの!?
「何をしているのミークリア! すぐ部屋に戻って!」
「お姉さま達、何があったの!? どうしてチャムさんやレイナさん達と戦ってるの!?」
「どうしてですって!? アタシ達のお父様とお母様が殺されたのはコイツらのせいだからよ!」
…………ん?
ツェニアン王女様? 言いすぎじゃない?
いや、殺してるんですけど。それは事実なんですけど。
バーニシアが、ね?
勝手にひとまとめにされて犯人扱いされちゃった。
「だからリア達は違うんだって! バーニシアは変わったの! ホントよ!」
「それを信じてもらえると思ってるところが1番ムカつくわ!」
それはごもっとも。でなけりゃこんな事にはなってない。
それよりミークリアは?
年齢的に親の顔なんて知らないだろう。それでも両親を殺した相手だなんて言われたらショックなんじゃ……。
……おっと、これ結構ヤバそう?
大粒の涙がボロボロこぼれているのはまだ良い。
問題は彼女の身体から黒い霧のようなものがじわじわ漏れ出し始めていること。
なんとなく嫌な予感が……。
──ゴォッ!!
「しまった……! ミークリア落ち着いて!」
なんだ? 風?
ただの風とは思えない。闇属性を纏ってる? それがミークリアの周りを回っている。
どんどん加速してる気がするんだけど。
それにもしかしてその辺の石をあそこに放り投げたら……やっぱり砕かれた。無闇に突っ込んだらボロボロになるな。
……って、どんどん風の渦が大きくなってない!?
「ツェン、『ネムリチョウ』を……!」
「ムリよ姉様! この風で全部弾かれちゃう!」
「…………いよ……ひどい! どうしてそんなことができたの……!?」
感情の高ぶりに引っ張られて威力も上がってる……!
どこまでデカくなるのコレ! 城を丸ごと破壊し尽くす気!?
「スリエラ! 〈邪視〉であの子を止められないかしら!?」
「ダメですわ! 嵐が闇を纏って黒いせいで上手く通りませんの!」
「ア、アンタ達何を……!?」
「オレらだって巻き込まれんのはゴメンだからなァ♪」
「チャムは異能使っちゃダメよ! 状況が悪化する!」
「ダメか♪」
どうにかしたくても状況が悪すぎる。
魔素があればまだやりようはあったんだけど消した張本人の姿が見えない。多分しばらくこのままだ。
そもそもコレどうやったら止まるの?
あとキージュとツェニアン、一旦煙と蝶をしまってくれないかな……!?
逃げ場が……!
「うわあああああ!!」
「あっ、嵐の中に誰かいますわ!?」
えっ、嘘!?
誰だよそんな無謀なことしたバカ!?
「落ち着けよ泣き虫。今度はオマエが大事なヤツを傷付けんぞ」
「あの方は、まさか……!」
「風が収まっていくわ!」
急に? なんで?
キージュはあれが誰か知っている? それもあの方?
闇族の女王であるキージュが敬意を払う相手……まさか……!
黒い風が晴れ、月明かりが2人の人影を照らした。
1人は精神的に疲れたのか急な異能の使用で消耗したのか、意識を失っているミークリア。
そしてもう1人。
眠るミークリアを腕に抱えるのは、髪も瞳も肌までも黒い少年だった。
その姿が露わになった途端、闇族が一斉に膝をつく。女王であるキージュも含め全員だ。
間違いない、あの少年は──……
「誰だあのガキ♪」
「闇族の態度から闇の最上位精霊であると推察する」
「精霊ですって……!?」
「なんだ、精霊に会うのは初めてか──侵入者共」
まっっっっずい……!!
「逃げるよ!!」
「逃がさねえよ!」
足元に闇……!? いや、これ穴か!
崩れた城の床全面を覆い尽くす巨大な闇の穴で瓦礫ごとウチらをここに落とす気だ。
しかもただ落とすだけじゃないな!?
「なんか吸い込まれンぞ!?」
「瓦礫を足場になんとか脱出して!」
「いや無理よこれ……!!」
それはそう!
この状況でブチギレた最上位精霊に勝てるわけがない! 他のどんな種族より異能を使いこなす種族の頂点なんだから!
って、なんでウチの目の前にいるの!?
落ちてたはずのウチの目の前──つまりウチの真下に少年がいた。
そして容赦なく蹴り上げられる。
打ち上げられたかと思えば、今度は横からの殴打。近くの塔の壁に叩きつけられる。
それから対して大きくもない手で口を押さえつけられた。
「闇に、飲まれろ!」
「ふぉーあんあ、あい!」
はっ!? 蹴りがすり抜けた!?
精霊って物理攻撃効かないんだっけ……!?
やばい……闇が流れ込んできて……息が……本当にマズい……!
「…………ミルフィーナ……?」
は……なに……?
いやそれどころじゃない……どうにかして抜け出さないと……。
そのとき、真っ暗だった少年の背後の戦場に一筋の光が差した。
「お待ちくださいネオ様……!」
侍従長……?
聞きたい事は色々あるけど、とりあえず……背中の白い羽は、何……?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ルイスは結局何者なのか──ミルフィーナとは誰なのか──1章オブスクリタス王国編、もうすぐ終幕です!




