第捌話 混戦と崩壊
【前回のあらすじ】
王家の血統の証明、捕えられたオルリアとスリエラ、オブスクリタスとバーニシアの間の深い溝──……
互いの言葉は届かぬまま、ついに闇族の女王達との戦闘が始まった。
【登場人物】
リクエール・レイナ・フェルサ:
本作の主人公で七聖天の1人。「レイナ」や「リン」と呼ばれる。
ケント:
リンの友人でバーニシア王国聖騎士の剣士。魔力は〈瞬速〉、異能は〈物体生成〉。
オルリア:
子供のような容姿をした明るい性格の七聖天団長。
スリエラ:
七聖天の1人でお嬢様言葉を話す女性。
チャム:
七聖天の1人。酒飲みチャラ男エルフ。
クンペル:
七聖天の1人。常に無表情で必要最低限の言動しかしない。魔力は〈干渉〉。
キージュ・オブスクリタス:
オブスクリタス王国の女王。
ツェニアン・オブスクリタス:
オブスクリタス王国の第一王女兼衛兵隊長。
ニゲル・アートルム:
オブスクリタス王国の宰相。異能は〈夢幻泡影〉。
フォルネア・ジュズナ:
オブスクリタス王国の魔導士長。魔力は〈黒雷〉。
ルイス:
闇族ではないのにオブスクリタス王室に仕える侍従長の女性。
◇ ◇ ◇ Side Lequel ◇ ◇ ◇
ダメだ、完全に話し合いは決裂した。
女王キージュの背後に御幸が差すように闇の筋が広がっていく。意思のこもった鋭い目がこちらを見ている。怖いよ。
「『闇ノ雨』!」
「っ……グングニル!」
後光のようだった闇の筋が飛んできた。グングニルを呼び出し回転させてそれを防ぐ。甲高い音がうるさいくらい響いた。
同時に団長が女王の背後へ飛び出す。
「『信仰・大力無双』!」
団長お馴染みの技で圧倒……って、嘘でしょ⁉︎
団長の『大力無双』を闇で止めた⁉︎
団長は小柄な分だけ小回りがきいてスピードがある。その上パワーまで増したあの状態は見かけ以上に厄介なのに。
これは団長でも勝ち筋が見えないな。
…………あれ、素手?
「あっ、武器返してない」
「回収してるのなら早く返してもらえるかしら⁉︎」
ごめんて。完全に忘れてた。
チャムが持ってるはずだけど──……ん? なんかアイツ楽しそうじゃない?
スリエラと一緒に宰相ニゲルと戦っている。
あの宰相、自分で魔素を支配する異能だと言うだけはあるな。チャムの『壊草』もスリエラの『神炎』も効いている素振りがない。
それなのにチャムは興奮した様子で愛用の鞭を振るっている。団長の剣は彼の腰だ。
「チャム、団長の剣を返し──!」
「ハッ♪ 魔力が効かねェってんなら物理的にズタズタにしてやるぜ!」
…………聞いてないな、アレ。
完全に戦いに夢中になってるよあのバカ。目的を忘れてるんじゃないの?
「どこを見てるのかしら⁉︎」
「っ──! 『世界樹枝』!」
「くっ……! 『黒真珠』!」
はあ……!?
縦横無尽に高速で振り回したグングニルをドーム状にした闇で防ぎやがった! あんなの大概の攻撃が通らなくなるじゃん!
闇属性ってそんな便利なの⁉︎ ずるくない!?
まぁ、隙は作れた。
女王に背を向けてチャム、スリエラ、そして宰相の元へ。3人が入り乱れて戦う中へまっすぐ飛び込む。
そしてその勢いのまま──……
「話を……聞け!!」
「ぐぅおえっ⁉︎」
チャムの腹目掛けて渾身の飛び蹴り。綺麗にめり込んだそれはチャムを部屋の壁に叩きつけた。
ふぅ、すっきり。
宰相から驚きと困惑に満ちた目で見られてる気がするけど。
「シュヨさんテメェ! ナニしやがる⁉︎」
「何じゃないよバカ。団長のそれ返せって言ってるのに聞く耳持たなかったのはチャムでしょ」
大体、ウチの蹴りにも気付かないなんて視野が狭まっていた証拠じゃん。なに夢中になってんだよ。
コレのどこが英雄だ。
「だからって飛び蹴りはないですわよ、飛び蹴りは。今日で1番ダメージ喰らってますわよ」
それは……まぁ……ちょっとやり過ぎなのは認める。
でもさ、いつまでも団長に素手で戦わせるわけにはいかないじゃん。明らかに不利だし。
団長が不利だとその皺寄せがウチに来るの。冗談じゃないよ。
「まぁまぁ、いいから早く団長の剣を……」
「レイナ後ろ……!」
「『鷲を貫く矢』!」
しまった、女王が後ろに……!
矢を形取った闇が何本も迫ってくる。無理矢理体を捻って宙返りで避けるとそのうちの数本が床を砕いた。
よし! ……って、残りの矢が追尾してくる⁉︎
マズい、グングニルも間に合わない……!
──ギギギィンッ!
…………あれ?
1本も当たらなかった。なんで?
人影に気付いて顔を上げる。目の前ではためく青いジャケット、茶色い髪、白い手袋に握り込まれたロングソード。
振り返った青い瞳と視線が交わった。
「リン、無事か⁉︎」
「ケント⁉︎ どこから現れ……っていうか、腕の麻痺は⁉︎」
「麻痺はまだ治ってない!」
「治ってないの⁉︎」
「戦闘音が聞こえたからクンペルにテレポートしてもらったんだ。間に合ってよかった!」
いやウチの心配してる場合か! 元気に宣言することじゃない。
矢を弾いてくれたのはありがとう。
テレポートされた先でいきなり攻撃を弾くなんてよくやるよ。しかも利き手じゃない方で。
流石は王国最強の剣士。
「もうちょっと自分の心配したら?」
「リンが無事なら良いんだ。そんなことより、彼女が女王陛下か?」
「そう。それであっちが宰相」
「へー……あそこにいる女の人は?」
「女の人?」
誰のこと? そんな人いたっけ?
ケントが指さした先。壁際にプラチナブロンドの女性が存在感を消して立っている。
「あ、侍従長。完全に忘れてた」
「あの人、何か伝えようとしてないか?」
本当だ。手を振ったり指さしたり、何かを必死で訴えようとしている。
でも何を? 一応ウチらって敵だよ?
「後ろ? 上? うーん、よくわからない……」
「あー……アレじゃねぇかな」
「アレ?」
納得したような顔で後ろを見つめるケント。その視線を追いかけるとチャムの姿があった。
大きな火花を散らす片手を掲げるチャムの姿が。
……これ、マズいかもしれない。
「イイぜシュヨさん♪ テメェがそのつもりなら…………コイツら諸共瓦礫の下敷きにしてやらァ!!」
コイツ根に持つタイプだった……!
「『爆乱砲』!!」
チャムの異能〈豪破掌壊〉。破壊に特化した爆属性の異能で、高い威力と引き換えに周りを巻き込んでぶっ壊すふざけた能力だ。
そう、周りを巻き込むのである。
チャムの手から飛び出した複数の火花が部屋の四方八方に飛び散った。そして大きな爆発を起こす。
爆風だけでも十分迷惑なんだけど、それよりさらにマズいのが──……
「崩壊しますわよ!」
あのバカァァァ……!!
高い天井を支える柱や壁が破壊され、ウチらの頭上は瓦礫の山に埋め尽くされた。
◇ ◇ ◇ Side Kent ◇ ◇ ◇
「リン! みんな! 大丈夫かー!?」
辺り一面瓦礫の山。土砂みたいな瓦礫が降ってきたもんな。
俺は〈瞬速〉の魔力を持ってるから避けるのも簡単だったけど、みんなは大丈夫なのか?
周りを見回して最初に目に入ったのは侍従長だという白髪の女性。彼女の周りだけ瓦礫が落ちていない。彼女の能力だろうか? 油断ならないな。
リンはどこだ? まだ瓦礫の下か?
──ドガン!
「まったく。これだから考えなしは嫌いですの」
「うおぉ…豪快な脱出だな」
大剣1本で瓦礫を吹っ飛ばした……? それも片腕で……?
スリエラの脱出方法にちょっと引いてたら、俺の隣にクンペルがテレポートしてきた。
あれ、お前は下でツェニアンとフォルネアの足止めしてるはずじゃなかった?
「ケント、現在の状況説明を希望する」
「えーっと……チャムがぶっ壊しちゃった」
「了解。被害規模の把握を実行する」
あ、行っちゃった。こんな一言の状況説明で良かったのか?
というか、俺こそクンペルがツェニアン達をどうして来たのか聞きたいんだけど。
そうこうしているうちにオルリアやチャムも瓦礫の下から這い出てきている。
女王もさっきみたいに闇をドーム型に展開して身を守ったようだ。
リンがいない。それに宰相の姿も見えないな。
「もう! チャムったら何してるのよ!」
「るっせェ♪ オレ悪くねーし♪」
「何を言ってますの。そもそもアナタが目的をお忘れになっていましたのが原因ですのよ」
ケンカすんなって。
コイツらこんな調子でよく10年も仲間としてやってこれたよな。それともなんでも言い合える関係ってやつ?
「姉様! 大丈夫!?」
げっ、ツェニアン……!
クンペルが足止めしないからこっちに来ちゃったじゃん。魔術師の男も一緒だ。
2人はキージュのもとへ駆け寄っていく。
というか、ずっと姉様って言ってたのは女王のことだったのか。じゃあ彼女は王女様?
マジか。
「下がって!」
「うおっ、リン⁉︎」
ちょっ、腕思いっきり引っ張んなって。カブじゃねーんだぞ。肩が死ぬ!
いよいよ右腕動かせなくなるって……!
なんで急に……?
それは着地して顔を上げたことで理解できた。
なんだアレ……!? オルリア達がみんな黒い壺みたいなモノに捕まってる⁉︎
上でリンが神妙な顔してそれを見つめていた。
「結界みたいなものかな。中で幻覚でも見てるかも」
「ほう。俺の『杯中蛇』から逃れるだけでなく、一瞬でその特性を見抜くとは」
宰相⁉︎ どこだ……⁉︎
周りには見当たらない。いつの間に瓦礫の下から出てきていたんだ? それとも俺みたいに瓦礫を避けた?
どちらにせよ姿が見えないのはおかしいよな。気配ひとつ感じられないなんて。
リンには見当ついてるんだろうか?
──……って、上空のリンの傍に蝶が!
まさかまた麻痺なんじゃ……⁉︎
「リン気をつけろ! また蝶だ!」
「遅い!」
えっ、蝶が宰相になった……⁉︎
蝶に化けていたのか!
「いでよ『ヤミノツルギ』! ──はぁああっ!」
「っ……あっぶな……」
良かった! ギリギリだったけど、リンは大きく後ろに飛んで宰相の剣を避けている。
まさか蝶に変身する能力があるなんて。
格闘少女──いや王女様か──といい闇族って蝶好きなのかな?
……って、悠長に考えてる場合か!
宰相のことはリンに任せよう。俺が優先すべきは壺の方だ。
中で幻覚を見てるって言ってたよな。結界みたいなものだとも。
近づいてみると思ったよりデカいな。
闇でできてるみたいだけどちゃんと触れる。陶器みたいな手触りだ。
「これなら壺を割れば……」
「やめた方がいいわよ」
げっ、王女……!
俺の右腕を使えなくした張本人。早く麻痺治してくれねーかな。
ツェニアン王女に続いて俺を囲むようにキージュと魔術師フォルネアが立ちはだかる。俺とリンを分断しようって魂胆だな。
「どういう意味だよ?」
「外から壺を割れば中の蛇たちがホンモノになるのさ。君もお仲間もその濁流に飲まれることになる」
余裕のある顔でフォルネアが言う。
無意識に剣を握る左手に力が入った。
「勝ち誇ったように言いやがって。あいつらを捕まえれば勝てるとでも言いたげだな」
「その腕でアタシたち3人を相手取る気? バカじゃないの?」
確かに余裕はない。
でもしょうがないだろ。やるしかないんだ。
──ピシッ
ん? 今の音って……おわっ⁉︎
壺が破裂した⁉︎
「よし! 脱出成功ね!」
「正直クンペルさんがいて助かりましたわ」
「だな♪ オレらだけだったら詰んでた♪」
あれ⁉︎ 脱出できてる⁉︎
しかもフォルネアが言ってた蛇も出てきてない。
あっ! もしかして、内側からの破壊なら蛇は本物にならないのか!
「ウソでしょ⁉︎ どうして……!」
「分析により自分達が闇の壺に捕らわれ、多量の蛇に襲撃される幻覚を見ていることが判明。よって壺を破壊するよう団長達に提言した」
「ホント助かったわクンペル!」
みんな無事でよかった!
ナイスだクンペル! これで人数不利も覆せる。
ツェニアン王女が悔しそうに唇を噛んだ。
感情豊かな彼女とは対照的にニヤケ面が変わらない魔術師フォルネア。
女王も表情はあまり変わらない。じっくりとこっちを観察してる感じ。厄介なタイプだ。
……と思った途端、そっぽを向く女王キージュ。
なんで?
彼女の視線の先には白髪の女性、侍従長が立っている。
そういえば、主人が戦っていても、天井が崩れ落ちてきても、逆に優位な状況になっていた時でも、彼女はあそこから動かなかった。
かといって、何かを仕掛けてくるわけでもなし。
どういうつもりなんだ?
「ルイス、アレをお願い」
「承知しました。──……『ゼロ・マジック』」
何を…………なっ……!?
この感覚……魔素が……消えた……!? そんなことあり得るのか!?
はっ、ちょっと待て。
魔素が消えたってことは……マズい……!!
「えっ……?!」
「リン……!!」
リンが空を飛べなくなる!!
今、リンの真下に床はない。地面まで真っ逆さまだ……!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
いよいよクライマックス…!




